今回の episode は吉田千鶴が主役となり、風早は殆ど登場していないため、彼女と進展した真田龍について良いと思った所を書き記してみます。
22巻 episode 88. 行くなよ
うららかな日の続く今日この頃、教室では真田の居眠りする姿が度々見られる様になった。
大会の予選が近づいている彼は、帰宅しても特訓メニューを意欲的にこなす、ほぼ野球漬けの日々を送っていた。
高校3年生に進級してこの時期、野球に専心する彼の思考は進路まで見据えての事だった。
話は、さかのぼること三者面談の席で。
彼はラーメン店の店主である父を連れて面談に臨んだ。
大学野球をやりたい ―――
野球に対する情熱の強い彼は、レベルの高い世界を目指して自分を磨く道を選択した。
彼が強く大学への進学を希望しているとはいえ、勉強の苦手な息子の成績を気に掛けた父は、荒井に難しい相談を持ち掛けた。
「 ピンちゃん
うちの子 大丈夫なのかね 成績 」
確かに彼が学力で大学へ進学するのは難しいのであるが、荒井には良案が有った。
「 ・・・ 秋の大会ん時 知ってる顔があった
見に来てたぞ 大学のスカウト 結果出せ 」
彼は体格に恵まれ、荒井から見て野球のセンスも良い。
1年生で早くもレギュラーの座を勝ち取り、先輩達からの風当たりは強くても愚痴や文句をこぼさないで、ひたすら熱心に野球に打ち込んで来た。
彼は荒井が作った特訓メニューを音を上げずに取り組んで来た事も有り、気付けば彼の野球に対する姿勢は周囲の模範と称され、試合を重ねるにつれて中心選手に成長していった。
先輩の引退後、新キャプテンに抜擢された彼は、更に鍛錬を積んで今に至っている。
狙いが上手くいく保証は無いが、スカウトの目に留まっても不思議では無かった。
チームをまとめて引っ張って行く立場の彼には、高校野球にかける意気込みが感じられた。
野球に専念するために、彼は3年生に進級してから店の手伝いに出ていない。
息子の情熱に理解を示している父は、店の事よりも本人のやりたい事を応援した。
「 みんな それぞれ頑張ってんのが一番嬉しーよ 」
店では吉田が、夜や土日の忙しい時間帯をアルバイトで積極的に頑張って働いた。
彼女は野球用品を彼にプレゼントしては、好物の特製おにぎりを差し入れる事も有り、彼の父と一緒になって応援し、陰から見守った。
二人に支えられて野球に打ち込めている彼は、下手なりに感謝の言葉を送っている。
「 ・・・ おにぎり どーもな
・・・ ずっと 家のこととか どーもな
子供の時からずっと応援 ・・・ どーもな
結果は出すから 必ず勝つから 」
父と吉田の期待を背負っている彼は、必勝を固く約束してみせた。
自信を持っている。
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