28巻 episode 112. 気づき
肌寒く冷える夜、繁華街を一人で歩く若い娘がいた。
その娘は、香水をほのかに漂わせながら、髪を揺らして歩いていた。
夜の街は冷え込んでいるが、人通りは少なくない。
誰もが何かの用で出歩いている様に見えた。
街行く娘の香りに誘われたのか、何処かから不意に声をかける男達が、娘の前に現れた。
「 ねー 一緒に遊ぼーよ 〰〰 」
「 いや ほんとにいいから 」
「 いーって言った‼ 今 いいって言ったよね 〰‼ 」
「 そーじゃなくて‼ 」
しつこそうな男達に付きまとわれてしまい、どうしようか考える娘。
それでも声をかけられた事には、何となく嬉しさを感じていた。
どうもその娘一人では、その場を切り抜ける事が難しいと見える。
押しの強い男達に戸惑っていると、偶然そこを通りかかった一人の紳士が目に留めた。
「 誰だっ 俺のナワバリで狩りしてんのはっっ ウガー‼
お嬢さん大丈夫ですかっ 俺 いや 僕と一緒っ にっ‼ 」
助けに入ったその紳士は、娘の顔を見るなり言葉が詰まり、調子を狂わせた。
「 なにやってんだよ おまえは
またこんなとこで浮かれてナンパされやがって 〰 !!! 」
「 ちっ ちがうよ
塾終わってちょっと買い物しただけじゃん‼ 」
紳士は仕方無く退散して行く男達を見届けると、娘との話を続けた。
「 は ――
・・・ とりあえず 家帰るんだな? 」
「 う うん! 」
「 気をつけて帰れよ また3学期な!
さっさと まっすぐ家帰れよ! 」
「 わ わかってるよ ―― !
よ ・・・よいお年を ・・・ 」
「 あ?
ああ うん 」
⦅ ・・・・・・・・・・・・ 「 うん 」だって・・・ ⦆
二人は別れを告げ、背を向けて歩き出した。
すると、離れて数秒の内に、別の男達が娘を狙って集まって来た。
「 あっ ねー どこいくのー ひとりー? 」
「 おれたち これからカラオケ 〰〰 」
咄嗟に気付いた紳士は振り返ると、娘が無抵抗になり、男達に囲まれていた。
紳士は舌打ちをして、彼女に呆れた。
さっき助けたばかりなのに・・・。
「 おい 送んぞ
おまえ すぐ ちょろいのにひっかけられそーになるからよー‼
押しに弱そーだし‼ 」
「 そ そんなこと・・・・・・‼
・・・・・・・・・・・・・・・ ないって言えない ・・・・・ 」
「 駅までな そっからは どーにかしろよ?
へんなのに ついてくなよ ⁇ 」
「 わ ・・・ わかってるよ ――‼ 帰ったら勉強あるし‼ 」
一度だけでなく、二度も救われた彼女は、彼に感謝して悔い改めるしかなかった。
二人は冗談を交わし合いながら、イルミネーションの明かりが作り出す、夜の美しい街並みをゆっくりと歩いた。
彼との駅までの帰り道は、まるでデートの様に楽しい時間になった。
危険から守ってあげられる。
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