7巻 episode 27. 新年
「 あけまして おめでとう! 」
二人は仲良く新年を迎えた。
「 今年も よろしくな! 」
「 こちらこそ! 今年もよろしくお願いします‼ 」
決まり文句とはいえども、「 今年も 」と言ってくれた彼に、黒沼の瞳は輝いた。
参拝に訪れた大勢の人々と並ぶ中、二人の番となり拝殿の前に進むと、作法に沿って一緒に行儀良く鈴を鳴らしてお参りを始めた。
黒沼は彼の隣で瞳を閉じて手を合わせ、幸運にも皆に会えた昨年への感謝を捧げた。
礼節を尽くして参拝を終えると、二人は脇の石段をゆっくりと降りた。
凍って滑り易くなっている所を発見した彼は、足元に気を付けてゆっくりと降りる彼女に手を差し伸べた。
彼女は王子のエスコートに恐縮したが、彼の心遣いのこもった温かい手に自分の手を重ねた。
それから二人はおみくじを引いた。
「 あっ 大吉だ‼
おもうがままになる運です
短気をいましめて 身をつつしみ
何事にも心静かに
他人と よくよく相談して ・・・・・・
うわ 出来っかな 俺 」
「 わ ・・・ 私はなんだろ 〰〰・・・
小吉くらいかな 〰〰 」
そう言って、控えめに期待した彼女の方は、おみくじを開くと次の言葉が出て来なかった。
気になった風早が、彼女のおみくじを遠慮無く覗き込んだ。
「 あっ 凶だ‼ 」
と、風早は声を張り上げた。
「 逆に運いいんだって
凶って めずらしいから 」
続けざまに出た彼のこの言葉が、沈んで凹みかけた彼女を救い上げた。
彼は、凶を貧乏クジでもハズレクジでも無いと解釈している。
それから、自分が引き当てた大吉のおみくじを彼女に差し出した。
「 これ 黒沼にあげる 」
「 えっ! 風早くんの大吉⁉
・・・ それは ・・・ なんていうか ・・・
・・・ 風早くんの運を吸いとってしまいそうなので ・・・・・・ 」
「 ははっ いーよ吸っても 俺 運強いから
それに ・・・・・・ ・・・・・・ つーか あげたいんだよ!
誕生日プレゼントにしちゃ すげーしょぼいけど! 」
「 ・・・・・・ あ ありがとう ・・・・・・‼ 」
強運の彼は、彼女に少しでもいいから運を分けてやりたいと思うのだった。
楽しい時は時間が経つのが早く、二人の初詣はあっと言う間に幕引きとなった。
風早は黒沼を家まで送り届けると、すごく楽しかったと言ってくれた彼女に、今の自分も同じ気持ちである事を得意の笑顔で伝えた。
「 それじゃ また 」
「 うん ありがとう ・・・ 気をつけて! 」
彼女と別れて歩き出した風早は、終えてしまった二人きりの初詣の余韻に浸るしかなかった。
まだ彼女はそこにいるだろうかと気になった彼は、ふと後ろを振り返った。
彼の視線が黙って見送っていた黒沼に届くと、彼女は強くなり続ける恋心を見抜かれてしまう様な気がして、恥ずかしさと怖さから彼と目を合わせられなかった。
はっきり言って、やっぱり彼女は可愛いよ。
彼女は足の指が冷え切ってしまっても、家に入らずに俺の姿が見えなくなるまで見送るつもりなのだろう。
曲がったことが嫌いで短気だと自覚している彼は、おみくじの運勢を思い出した。
俺は、おみくじのお告げを忠告として真摯に受け止め、自分を戒められるだろうか。
こちらも強くなり続ける恋心を抱く、短気を戒める事にいまいち自信の持てない風早だった。
運が良い。
自分の出来を鼻に掛けず、相手を上手くフォロー出来る。
惚れた相手の幸せを願う。
[ 広告 ]