風早翔太に学ぶ!モテる秘訣 ‹ 29 ›

8巻 episode 29. 2年生

新学期が始まり、2年生に進級した黒沼。
クラス替えが行われたこの春、彼女には全ての友達と同一のクラスが与えられた。
勿論もちろん風早と真田も一緒である。
このクラス編成は、再び彼女の担任をつとめる荒井の配慮に他ならない。
北幌高校では3年次ねんじにはクラス替えを行わない事から、もうこれで彼女達は卒業するまで皆と離れる心配が無くなった。
始業式の日に教室に入ってみると、そこには大好きな友達が皆いる。
これには黒沼も、まるで夢のようだと語っていた。
同じクラスになれた事を喜んでいるのは、風早も同じだった。
しかし、それでも彼は内心気分が曇り気味になっていた。
また、これは今に始まった事では無かった。
それは、黒沼が全ての友達と荒井にバレンタインチョコを渡していたのに対し、じつのところ、誰よりも期待していた彼はもらえなかった事を引きずっていたのである。
そんな彼の気持ちの雲きを更に怪しくする事が、この日に起きた。
始業式の後、皆が席に着いた教室で、黒沼が隣の新顔の男子と握手をして談笑している。
彼女が初対面の男子と楽しそうに長々と会話する様子を見てしまった風早は、彼女との距離がなかなか縮まらないどころか、少しずつ開いてきている現実に少しあせりを感じていた。
同じクラスになれて一先ひとまず安心したものの、これ以上距離を開けたくない彼は行動に出た。
生活委員に再び選ばれた黒沼が、放課後に花壇かだんの世話をするのを狙い、気兼きがね無く彼女と話す機会を得るために、誰もいない教室で待つ事にしたのだ。
彼は教室の窓際に立ち、外で楽しそうに花壇の手入れをする黒沼をながめていた。
すると、偶然にも矢野が図書室から戻ってきた。
「 風早?   まだ残ってたんだ? 」
「 ああ うん 」
感の良い矢野は気付いた。
さっきまで外の黒沼を眺めていた彼に、不敵な微笑を浮かべて問いかけた。
「 風早 あんた彼女とか作んないの? 」
「 え ⁉  何 急に‼ 」
「 だって けっこーモテんのにさぁ
  あっ すきな子でもいんの?
  いんでしょ いるよね ‼
  誰? 知ってる子なら協力してやろっか? 」
「 矢野   そーいうの あんま 似合わない
  ・・・ 協力は いらない
  それに「 誰がすき 」とか そーいうのは
  本人に1番最初に言いたいから 矢野には言えない 」
黒沼の恋の行方を心配している親友の矢野は、彼女の力になりたくてたずねたのだが、彼は協力をさらりと断った。
常に自分より先を行き、容易たやすく扱ってくる矢野のあやしげな優しい言葉を疑った訳では無く、彼には彼の立派な恋愛観が有った。
風早の返答に矢野は、この二人の恋の問題は下手に第三者が介入してはならないと悟った。

教室に届く夕日の色が濃くなる頃、花壇の世話を終えた黒沼が、ようやく教室に戻って来た。
もう誰もいないと思っていたそこには彼が一人、窓際の机にもたれてたたずんでいたものだから、彼女は不意を突かれた様に驚いた様子だった。
恋愛に関して奥手な彼女は、久しぶりに彼と二人きりになった状況に、直ぐに緊張し始めた。
彼は優しく話しかけた。
恥ずかしさと緊張から内気になってしまった黒沼をよそに、彼のもちいる言葉はいつもより丁寧ていねいで、ずっと積極的だった。
言葉選びに慎重しんちょうになり、を置く黒沼を前にして、彼女を困らせてしまったと見た風早は、話を続けたくても我慢し、その場からさま引き下がる事にした。
彼女と一緒に帰りたかったのに、何となく不穏ふおん手応てごたえしかなく一人で寂しく帰る事になってしまった風早に、笑顔は無かった。

立派な恋愛観が有った。

    恋愛偏差値が高く、自分の恋愛観が有る。

黒沼の反応を見て、すぐさま引き下がった。

    引き際を心得ている。

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