1巻 episode 1. 席替え
二学期の初日、空はあいにくの強い雨模様だった。
昨夜から続く悪天候にも関わらず、登校して来た黒沼の手には、傘が無かった。
すっかり雨に濡れてしまい、クリーニングした制服を台無しにしてしまった彼女。
身体を濡らした雨水をハンカチだけで何とか拭いていると、元気な王子様が教室に到着した。
「 おはよ ―― ‼ 」
いつも明るく爽やかで、クラスの人気者の風早。
しかし、雨具を使ったはずの彼も、身体が雨で随分と濡れていた。
肝試し大会前までは二人が話す機会など大して無く、彼女が憧れと尊敬の眼差しで、遠くからそっと彼を見つめているのが常だった。
しかし、彼が幾つも関係の改善に努めるからなのだろう、二人の関係は良好へ向かう。
彼は仲間達との終わりそうにない話に区切りをつけると、黒沼のもとへ挨拶に行くのだった。
雨で濡れた黒沼にタオルを貸した事で、お礼に紙パックのコーヒーを受け取った風早。
彼は、彼女が手にする小さなパック牛乳に目を留めた。
「 黒沼は 牛乳? 」
「 あ! これは犬にあげようと ・・・・・・ 」
「 犬? すきなの⁉
俺 今日みたよ 捨て犬だけど 子犬でさ!
遊んでたら制服ぬれちゃってさ 」
「 ・・・ 捨て犬? 子犬? 河原の? 」
二人とも、子犬が理由で雨に濡れて登校したという事だ。
登校時に、河原で見かけた空き箱の中で鳴き続ける一匹の捨て子犬を気の毒に思った黒沼は、自分の傘を空き箱にかざして立ち去り、その後に通りかかった風早が、雨に濡れて震える子犬を発見したのだ。
子犬のその後が気になった二人は、雨の止んだ帰り道、河原の子犬を見に行くことになった。
子犬は濡れたまま、まだそこにいた。
二人が近づくと、空き箱の中でうずくまっていた子犬は立ち上がり、尾を振って鳴き出した。
「 そっか この傘 黒沼のだったのかぁ!
そんで あんな ずぶぬれだったんだ 」
傘をよく見ると、確かに彼女の名前が書いてある。
子犬の身を案じた黒沼の女の子らしい優しさに、彼は感動させられた。
彼は人懐っこく求愛するこの子犬を貰い受ける事に決めた。
雨上がりの虹のかかる夕暮れ時を、二人は子犬と仲良く戯れた。
マメになれる。
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