3巻 episode 10. 新しい友達
あやねちゃん ちづちゃん えっこちゃん トモちゃん ・・・
友人の増えた黒沼に、彼女達は自分達を愛称で呼んでくれるようにお願いしていた。
もう友達である以上、愛称で呼び合った方が、より親しみ合えるという事だ。
これは、黒沼を本当の名前で呼んでもらえる良いきっかけにもなる。
しかし初めのうち、彼女は恥ずかしさからなのか、将又まだ慣れていないだけなのか、友人を愛称で呼ぶ事が思うようにいかなかった。
友達との距離感が縮むのは、彼女にとって嬉しい事なのだが、特に相手が男子となってくると話は別だ。
彼女は男子である風早を、愛称で呼ぶ事にはとても抵抗感を感じた。
彼女にとって風早という存在は、普通の男子というものでは無く、彼女の言うことによれば、⦅ すごく「 男子 」 ⦆なのである。
彼を愛称で呼んでみるよう矢野に勧められた時、彼女には『 翔太くん 』のような近しい言葉は全く頭に浮かばず、彼を下の名で呼ぶなど迚もじゃないが出来なかった。
いつも親しくしてくれるとは言っても、彼を下の名で呼ぶには馴れ馴れしさが感じられるし、彼女にとっては『 すごく男子 』な彼だから、彼女に何か特別な気持ちが働いたに違いない。
また、風早から彼女を下の名で一度呼んでみて欲しいと、矢野が彼に提案した事も有ったが、彼は呼ばなかった。
緊張したように顔が強張ってしまった彼女は、そんな事望んでいない。
この時、風早が彼女との距離を縮めたいと思っていたとしても、まだ無理そうだ。
それに、そもそも普段の彼は、いくら仲が良い関係の女子であっても下の名で呼んでいない。
やはりその辺りは、彼も黒沼と同じように距離感を大切にし、相手に不快感を与えないように思いやれる性格であると言えるのだろう。
このように、風早と黒沼のお互いを名字で呼び合う関係は変わらなかったが、後々に黒沼の心境に変化が表れるようになった。
ある日の学校で、黒沼は何処かのクラスの女子が風早と親しげに会話しているのを見かけた。
話は殆ど聞き取れなかったけれど、どうも風早は話相手の彼女を下の名で呼んでいる様子だ。
・・・・・・・・・・・・・・・ 仲いーんだなあ ・・・・・・
・・・ そういえば きいたことなかったけれど
風早くんには とくべつな子は いないのかな
名前で呼ぶのは とくべつかな
彼女は初めて感じる胸の痛みと共に、下の名で呼ぶ二人の関係に羨ましさを感じ始めた。
礼節が有る。
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