25巻 episode 100. がんばれ
風早には、仲間や友人が沢山いる。
その内の一人である親友の真田は、夏の甲子園を目指して予選を順調に勝ち進み、北北海道大会の準決勝まで駒を進めていた。
野球部顧問の荒井が言う様に、彼の就任以来一番強いこのチームは全校応援をしてもらえる事になり、北幌高校の生徒達が勝利を願って球場へ集結した。
今日の対戦校は名実共に格上であるだけに、試合前のチームの空気はピリピリと痛かった。
そして、緊張感が最高に達した時、審判の掛け声一つで試合が始まった。
試合は序盤から相手にリードを許す展開になる。
相手校の観客席ではブラスバンドが元気に空高く鳴り響き、声援も北幌陣より豪華である。
風早一同は、それに負けじと観客席から力いっぱい応援した。
それでも相手校の声援には敵わない。
彼らの喉は、次第に乾き、かすれ始めた。
彼はチェンジの合間に席を外し、弱ってきた仲間達の分まで飲物を買いに行く事にした。
いつも仲間達の中心にいるリーダー的な存在の彼であれば、人に頼む事くらい容易である。
しかし、彼は自ら動いた。
親友が負けている試合を座って見続けているのは苦痛であるし、野球経験者として、自分が今すべき事を最も理解しているのは彼であった。
もしここで、誰かを買い物に行かせるような事をすれば、カリスマ性の有る彼であっても、ここまで慕われないはずである。
彼の能力は、あらゆる人から求められ、親しみや好意を寄せられる事である。
つまり、どんな人からも好かれる能力。
いわゆる愛されキャラである彼は、自然に他人をも愛する事が出来た。
飲物を沢山買い込んだ彼は、観客席へ戻るとき、吉田と出会した。
誰よりも一番に、ずっと真田を応援して来た彼女が今、負けている終盤で観客席を離れて、階段の踊り場で風に当たりながら遠くを眺めている。
そういえば、今日は声の大きな吉田の声援を全く聞いていない事に彼は気付いた。
疑問に思った彼は、彼女に声をかけた。
「 吉田!
何やってんの こんなところで
いつから ここにいんの
負けてるよ 3対1
でも ピンチも何回もしのいでる
龍も すげー声出して
指示もマウンドに走るのも いつもより多い 」
応援はしているけれど、素直に応援出来ない・・・
私から離れて遠くへ行かないで欲しい・・・
彼は、大学進学への道を野球の成績に賭けている真田を素直に応援出来なくなっている彼女の気持ちを悟った。
「 しってる?
吉田の声ってグラウンドにいっつも超聞こえんの
小中と一緒にやってたからね みんな すげーとか言って
そーいう時 龍 打つ記憶しかない 」
彼は野球一筋で頑張って来た友人を心から応援するし、声援を送りたくても拗ねて出来ない心境の彼女を応援し、例え離れる事になっても恋人の勉強を応援する、そんな人物である。
慕われ易い。
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