3巻 episode 11. 協力
近頃の黒沼は,学校に通うことがとても楽しそうだった。
取り巻く環境が良くなったのはもちろんのこと、彼女の身に起こるのは良い事ばかりだ。
矢野や吉田と仲直りして以来、彼女の運気は右肩上がりを続けている。
「 貞子が笑うと福が来るって 言われてるよ! 」
そんな事をクラスメイトが言うように、彼女を避ける人物は明らかに減ってきていた。
こんな恵まれた状況に、彼女は喜ばずにはいられなかった。
隣の席である風早とも話す機会は多いし、友達も増えた。
クラスの皆が持つ、彼女への印象が変わり始めてきているのだ。
そして風早と関わる中で、彼が自然に笑顔を見せてくれる度に、彼女の気持ちにも変化が表れ始めていた。
彼が仲間達とサッカーの練習に取り組む楽し気な姿を見つめていたり、髪型を変えた事を指摘してくれたり、一緒にサッカーの練習に付き合ってくれたり、それは、これまでと同じように彼を目で追っていた時であっても感じられた。
このように、黒沼は彼を非常に意識するようになった。
それでも、彼女にとって『 すごく男子 』な彼との距離は何も変わっていない。
また、彼女の気持ちに変化を与えたのは、最近友達になった胡桃沢 梅の影響も大きい。
私も くるみちゃんみたいに なれたらいーのにな ―――
彼女は、風早と親しく話せる仲である胡桃沢と自分を比較して、自分も可愛くなりたいと切に望んだ。
・・・・・・ なんていうか うらやましかったの
くるみちゃんが あんまり可愛くて うらやましくなって
私も可愛くなりたいなあって そんな風に思ってしまったの
風早を気にし過ぎるようになった彼女の気持ちの変化は、時に胸の痛みとなって表れた。
⦅ くーろぬま! ⦆
彼女の脳裏に、笑顔で呼びかける風早の顔が浮かんだ。
ここはもう彼女の家の中であり、布団の中で目を閉じて眠りに就く時である。
それほどまでに、風早の存在は彼女の心の中で大きくなっていた。
癒される笑顔、ぽかぽかと暖かい気持ちにさせてくれる笑顔、そんな彼の笑顔には、嬉しくてこちらまで笑顔になってしまう力が有る。
彼女は夢の中でも風早に会えるように、暖かい布団で気持ち良く眠りに就いた。
笑顔が素敵である。
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