27巻 episode 110. いつも
北海道の短い夏休みが終わり、風早達は2学期を迎えた。
高校生活が再開され、受験を意識した日々が一段と厳しさを増す。
彼ら受験組は、夏休みに行ったそれぞれの勉強の成果をあげるべく、模擬試験を受けた。
試験明けの彼から感じた明るい印象からは、それなりの手応えが有った事が感じられた。
志望校記入欄の第一志望にD教育大の名を初めて書いた黒沼には、強い決意が感じられた。
盆に開いた勉強合宿の時、胡桃沢から
「 わたしと教育大に行こうよ‼ 」
と、強く誘われた事が、彼女の第一志望校変更の決め手になったのだろう。
風早と黒沼を別々の大学に進学させて両者を離そうとか、過去の悪行を水に流してもらい、これからは仲良くしていきたいだとか、そんな思惑が胡桃沢に有ったのでは無くて、国語の高校教師になる事を漠然と希望している黒沼の将来を考えて、彼女に適した学習環境を薦めたいという思いに彼女が頷いた形である。
黒沼は模試を終えた後も、第一志望校を変更した事を、まだ風早に知らせていなかった。
彼女は頃合いを見て、彼に話しかけた。
「 か 風早くんに お願いがあります 」
「 ん 何? 」
「 ・・・ 一日 一日だけ 私にください
どこかに遊びに行けないかな!
相当なわがまま言ってるけど
勉強の邪魔しちゃうけど ・・・
その ・・・ 一回! 一日でいいの!
・・・・・・・・・ やっぱりだめかな ・・・・・・・・・・・・ 」
「 ・・・・・・一日?
ほんとにくれるの?
遠くに行こう‼
いつもより 遠くに ―――――― 」
店の手伝いや受験勉強で時間に余裕の無い彼の立場を理解しながらも、一日をかけて一緒に何処かへ遊びに行きたいと彼女が言い出した事に、彼は何も理由を尋ねなかった。
彼女からの思いがけない誘いに、彼は余計な心配を吹き飛ばす様に喜んだ。
彼女が選んだ遊び相手は、友達では無く風早。
丸一日欲しいと言うのに、特に行きたい所がある訳では無い。
流石に彼女も、勉強ばかりの毎日に退屈を覚えたのだろうか。
彼の様に、心に余裕が有れば、彼女から色々と見えてくるものが有る。
さて、彼女も喜ぶ最高のデートにするには、どうすればいいだろうか。
楽しく話し合った結果、厳しい受験勉強の日々に明るい彩りを添える様に、二人は非日常の世界へと、息抜きデートに出かける事となった。
心に余裕が有る。
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