29巻 episode 116. うけとめて
世間は受験シーズンの真っ盛りであり、2月も半ばを迎えた。
今日も朝から雪が降り、冷え込む日々はまだまだ続く。
しかし、この様な冷たい季節でも、それに負けじと桜の花は咲く事が出来るものである。
今日は、矢野が受験した東京に有る大学の、合格発表の日。
去年、彼女が最後に受けた模試の合否判定は、五分と五分。
荒井先生がいたから、大学を推薦という無難な道から東京の難しい大学の受験を決意して、仲間達にも励まされながら、彼女は最後まで頑張って走り抜いた。
試験当日は体調万全で全力を出し切っていても、この日ばかりは朝から落ち着けなかった。
それは、彼女を応援し続けた荒井も同様であった。
教師としては勿論の事、男としても頼もしい彼は、大人気取りでおしゃれな辛口女子である矢野にもへつらわず、いつも男らしく格好良くしている。
そんな彼でも合格発表の日である今日ばかりは、朝から頭の中が彼女の事ばかりになった。
用事が無ければ出来るだけ職員室で大人しく、彼は教え子達の報告を待つ事にした。
椅子に座り、雑用を続ける体育教師の彼に、待ちきれない気持ちが苦痛の拍車を掛けた。
昼が過ぎ、時計の針が更に進んでも、誰も彼を訪ねて来ない。
ただ無意味に時間が過ぎて行く事にしびれを切らした頃、ようやく『 コン コン 』と、扉をノックする音が響き届いた。
「 失礼しまーす‼ 」
「 おう 入れっっ 」
「 せんせ 〰〰〰〰
受かった 〰〰〰〰‼ 第一志望‼ 」
「 おう‼ やったな‼ やると思ってたぞ‼
お疲れさん おめでとう‼ あとは事故に気をつけろ‼ 」
「 はーい! 」
「 28日来んの忘れんなよ‼ 」
「 来っまーす 先生風邪ひかないでね 〰〰‼ しつれいしまーす♡ 」
「 あっ ちょっと待て‼
・・・ おまえ 矢野見なかった? 」
「 やのちん?
会ってないよ 〰〰〰
教室にもいなかったけど ―― 」
「 ふーん? 」
⦅ 発表 今日のはずだよな?
てことは あいつ ・・・・・・ ・・・ 散ったか ・・・‼
う 〰〰〰〰 ん
・・・ ま ・・・ もーちょい 待ってみっか ・・・・・・・・・ ⦆
壁の時計は午後4時を過ぎている。
彼は、椅子に深くもたれると、矢野からの報告を、もう少しだけ辛抱強く待つ事にした。
要所では主導権を握る。
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