30巻 episode 120. 旅立ち
厳しかった受験勉強の日々を乗り越えて、各々が始める新生活の門出を祝う風早達。
全ての結果が出揃った所で、彼はいつもの仲良しグループで集まって祝賀会を開いた。
ただ、この仲間内だけの集まりには、今回から新しいメンバーが一人加わっていた。
その人物とは、黒沼と共に受験勉強を戦い抜いた胡桃沢である。
彼女が過去に黒沼へ数々の悪行を働いた事を、男子達は全く知らない。
矢野、特に吉田には好かれていなかった胡桃沢であるが、彼女は過去に犯した罪を深く反省している旨を二人に示して謝罪した事で、仲間として共に祝ってもらえる事になり、この会に気持ち良く参加出来る運びとなったのである。
彼女は風早と知り合いになり、そして黒沼と出会えた事がとても幸運だった。
今ではその事をとても痛感している彼女は、風早にどうしても話しておきたくなった。
この祝賀会は彼女にとって、願ってもいなかった良い機会。
彼がトイレへと部屋を出て行った事で、彼女も数分後に部屋を出た。
部屋へ戻る所の彼は、彼女もトイレだと思い、親切に案内した。
「 あ えっと そこ曲がったとこ すぐ 」
「 ど どうも ・・・・・・・・・・・・
今日 ありがと ・・・ 誘ってくれて
・・・ おかげで こうしてふつうに喋れるようになったし
・・・ やっぱちょっと ・・・・・ さけてたようなとこ あったから ・・・
・・・ 風早を好きだったときは 自分の中のぐるぐると ずっと向きあってたから
今 ・・・ ちょっとすっきりしてる ・・・・・・
また そーなるかもしれないけど ―― 次は ・・・ 爽子ちゃんもいるし
わたしには ・・・・・・ 爽子ちゃんは ――――― ・・・・・・
わたしから風早をとったと思ったけど ・・・・・・ ちがった
風早がわたしに爽子ちゃんをくれた ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ありがとう
・・・ わたし 恋愛じゃなくても やっぱり風早のことは一生すきだわ ・・・・・・ 」
この人の前でも、素直な自分になれたかな・・・。
彼女は恥ずかしそうに微笑を浮かべていた。
好きで好きで仕方が無かった彼女の恋は成就しなかったけれど、自分の中のぐるぐるから解放されて、一回りも二回りも成長出来た気がする。
彼を好きでいて、本当に良かった。
それだけでも彼女は幸せを呼び込み、自身を救済出来ていた。
幸運をもたらしてくれる。
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