4巻 episode 13. しりたい
黒沼は胡桃沢と二人で、風早の出るソフトボールの試合を観戦することになった。
出身中学が彼と同じである胡桃沢もまた、例外無く彼に恋をして北幌高校に進学してきた一人である事を、つい先日に彼女は知ったばかりだ。
二人は試合に集中している風早を目で追いながら話した。
中学生の頃から彼の事をずっと見てきた私だから色々と知っていると豪語する胡桃沢に対し、知らない事の方が多い黒沼は、あなたの言う風早への特別な気持ちなど、私の抱いている恋心の比ではないと主張されてしまう。
「 わたしの気持ちと一緒にしないでよ ・・・・・・・・・・・・ 」
「 ・・・・・・ わかったようなこと 言わないでよ ・・・・・・・・・ ! 」
女同士で交わされる話の中には共感するところが有れども、胡桃沢は立場を譲らなかった。
胡桃沢が彼に恋しているのに対し、黒沼は生まれて初めて感じている彼へのこの気持ちが一体何なのかをまだよくわかっていない。
・・・・・・ 気がつくと
目線の先には風早くんがいて 目がはなせない
気がつくと 風早くんのことを考えて
眠る前には風早くんの顔が浮かぶ
何もかもが初めてで ・・・
この気持ちは とくべつなんだと思った
彼女は本気で恋する胡桃沢をとても可愛く思い、その気持ちを尊重していた。
そして胡桃沢に言った。
「 ・・・・・・・・・・・・・・・ 私は ・・・・・・
ほんとに何もしらないんだと思う
風早くんのことも 風早くんじゃなくてもこんな気持ちになるのかも
これ以上の何かがあるのかも ・・・・・・
私 風早くんのことも 自分の気持ちももっとしりたい! 」
いつも自分に良くしてくれる風早に、何時しか黒沼は特別な感情を抱くようになった。
彼女にとって風早は、ただの憧れの、尊敬できる「 いい人 」では終わらなかった。
彼は恋愛に疎い黒沼の心を掴むための、迅速で的確かつ地道な努力を積み上げてきたからだ。
特別な人になれる。
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