5巻 episode 19. 千鶴の恋
季節は11月下旬にもなると、毎朝が冷え込むようになり、秋は殆ど終わりを告げていた。
今朝は少し風も吹いていたため、風早はブレザーに身を包み、暖かくして登校した。
以前にブレザー姿で登校したのは、彼がまだ初々しかった春の事になる。
彼は下駄箱で靴を履き替えると、そこには黒沼と吉田がいた。
「 あ おはよ 風早! 」
「 あ ・・・ おはよ! 」
この時、彼は何も言わずにただ注視してくる黒沼に気付いた。
「 やっぱ ばれた⁉ ねぐせ‼ 」
そう言いながら、彼は見事に跳ね上がった横髪を慌てて手で隠した。
起床してからの忙しい時間、どうしても直せなかった寝癖が彼女に見付かったと思ったのだ。
腰が有り、少し癖の有る彼の髪は、この乾燥する季節には手入れに手間がかかる。
「 ほ ほんとだ 〰〰〰 」
黒沼は彼に言われて初めて寝癖に気付いた。
彼女が気にして見ていたものは、久しぶりにブレザーを着こなしている彼の新鮮な姿だったのである。
「 ばれてなかったの⁉ まじで⁉
なんだ‼ じゃ ―― そーいう髪型ってことにしとけばよかった! あははははっ 」
と、明るく自分を笑い飛ばした。
普段から、気取る事無く自然体でありながら、かっこいい風早。
しかし、人にあまり知られていない彼の一面を覗き見出来た黒沼は、寝癖のついた笑顔の彼を⦅ かわいいなああ! ⦆と思いながら、彼を呼ぶ仲間達の輪に溶け込んでいく姿を見送った。
ある日の放課後の事、風早が廊下で仲間達とたむろして話していると、黒沼と吉田がカバンを提げて教室から出て来た。
「 あれっ 今日2人? めずらし ―― 今から帰んの? 」
「 そ 〰〰 今日は 〰〰 2人で 〰〰 初めて 〰〰 ね 〰〰〰 」
いつもはっきりと物事を話す性格の吉田が、何故か彼の質問をはぐらかそうとしている。
不思議に思った彼は、更に問いかけた。
「 どっか寄ってくの? 」
「 うん ・・・・・・ 2人でちょっと買い物を 〰〰・・・ 」
そう話し始めた黒沼を、吉田は素早く止めた。
「 爽‼ 」
風早の傍では、気を取られた真田がこちらを見ている。
その詮索めいた質問は、この後吉田によって軽くあしらわれてしまった。
彼女は自分の弟のように接している幼馴染の真田のために、今から内緒で誕生日プレゼントを黒沼と一緒に探しに行く事になっているのである。
服を格好良く綺麗に着こなせる。
ポジティブである。
「 かわいい 」は男に対しても誉め言葉である。
情報収集は欠かせない。
[ 広告 ]