ここからしばらくの episode は、吉田千鶴と真田兄弟の話が中心に描かれているため、風早は殆ど登場してきません。
そのため真田兄弟から良いと思ったところを書き記してみます。
5巻 episode 20. 兄帰る
真田には、少し年の離れた兄がいる。
彼の名は徹と言い、この兄弟は比較的に仲が良く、顔立ちも似ている。
しかし、兄は女性が大好きで生きて来たのに対し、弟は野球が大好きで生きて来たという点は相違している。
兄は高校を卒業と同時に、仕事と都会の空気を求めて札幌に移り住んだ。
その当時はまだ小学生だった吉田が、兄の旅立ちに随分と寂しがっていた。
彼女は昔から頭を撫でて可愛がってくれた兄が大好きだった。
兄としては、吉田を幼少の頃から妹の様に可愛がって来たのだが、吉田からすれば、兄は彼女にとって理想的な旦那さんだった。
その兄がパワーアップして、約1年ぶりとなる今週末に帰って来るのである。
帰るとすれば、いつもは盆と正月だけの兄だったのに、正月を待たずに帰って来る事には何か事情が有るのかもしれない。
兄の帰省をいつも楽しみにしている吉田は、兄が今年の盆には帰って来なかった事から、正月には必ず帰って来るだろうと早くも待ち焦がれている状況が続いた。
今や高校生である彼女は、少し大人に成長した姿を兄に見てもらおうと、ミニスカートを買う予定を立てていた。
真田は兄から帰省の知らせを受けてから、彼なりに色々と考える事になった。
彼女に兄を早く諦めて欲しいと思っている彼は、兄の帰省を正月に期待している彼女の様子に少しばかり嫉妬感を覚えていた。
そんな彼女を見ていたら、今週末に帰省する事を敢えて言う必要が有るのだろうかと考えた。
でもまあ、知っているのに教えないのは何となく俺らしく無い。
それに、兄の帰省する土日は、俺の誕生日である日曜日と重なっている。
彼女が誕生日プレゼントを用意してくれている事には気付いているから、どのみち彼女は兄と出くわしてしまう可能性が高いだろう。
そうなると、帰省する事を知らせてくれなかった俺を強く責め立てるのは見えている。
その夜、彼は自分の口で直接伝えるために、近所に有る彼女の家へ出向いたのだが、折り合いが悪く、普段の様に話をさせてもらえなかった。
恋する女性の心は複雑で神経質になっている様子で、彼女の心中に居座る兄という大きな存在が彼に仕事をさせず、彼は野球の様に上手く彼女の心を攻略出来なかった。
それからも、彼は機会が有る度に彼女に伝えようと努力したのだが、彼の打席は悉く空振り三振に終わり、彼は坊主頭をかきながら、すごすごと引っ込む事になったのである。
大事な話は口で直接伝える。
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