6巻 episode 23. 初雪
ある日の放課後に、吉田がゆっくりと家路を歩く。
友達と寄り道をした後の西空が、彼女にとっては何とも哀愁的で肌寒い。
冬の寒さが日増しに強くなる中で、北幌の街角では傷心している彼女の帰りを待つ男がいた。
それは、ほんの数日前に札幌へ戻ったはずの徹である。
何時もと特別に何も変わらない帰り道で突然に彼と出会った吉田は、この不意に訪れたドラマに切れ長の目を丸くして大層驚いた。
彼は平然とした顔で、彼女に会いに来たと言う。
彼女は何だかよく分からないまま、住み慣れたこの街を徹と一緒に散歩して帰る事になった。
会話はゆっくりとした口調で、吉田の質問から始まった。
「 いつ来たの? 」
「 さっき 」
「 今日 泊まってくの? 」
「 いや 夜のうちに帰るよ 」
「 ・・・・・・・・・・・・ 仕事は? 」
「 はは 今日は頑張ったよ 〰〰〰 早く終わらせて来ようと思って 」
「 ・・・・・・ 明日も朝から仕事? 家着くの夜中だね 」
「 ・・・・・・ つまんねーこと きにすんなよ 」
彼はそう言いながら、彼女の頭をポンッと優しく触った。
( ・・・・・・ いや うれしいんだ うれしいんだよ )
彼女は徹が家に戻るのは夜中になるため悪い気がしたものの、そこまでして会いに来てくれた事がとても嬉しかった。
彼女は少し調子に乗ってみた。
「 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ あのー ちなみにさ 」
彼女は歩きながら軽快にくるくる回って制服のミニスカートをなびかせると、自慢の長い脚をアピールしてみせた。
「 ど どお?? ミニスカなんだけど 」
彼は積極的な彼女に応じること無く、何も感じていない様子で答えた。
「 あ ―― 昔っからよく足出してたもんなあ! ちー!
相変わらず元気元気! もーオレおっさんだからさみーわ‼ 」
彼の頭の中で、手にはタモを持ち、肩には虫かごを提げて、短パン姿で元気に走る子供の頃の彼女が思い出されていた。
彼女は相変わらず子供扱いする彼の態度に不満を露にしながらぼやいた。
「 おっさんじゃないじゃん ・・・ 24でしょ ・・・ 」
「 あはは ちーくらいの年にしてみりゃ 24なんかおっさんだろ ―― 」
またしても、彼女は軽く往なされた。
( よ ・・・・・・ より一層子供扱いか ―― こんなにいい足してんのに ・・・
あーあ ・・・ なあんだ ・・・ かわいそうなあたしのフトモモ )
高校生になり、少し色気が付いてきて、徹に近づけたと思っていたのに、彼は反応しない。
この帰り道、まず徹はコンビニに立ち寄って温かい肉まんとあんまんを買うと、それを割って半分ずつにして吉田に渡した。
彼女は子供の頃このコンビニで、高校生だった彼に肉まんとあんまんを買ってもらい、彼女にまるごと2個は多かったため、半分ずつにして一緒に食べた事が有ったのだ。
徹は当時と同じように吉田と一緒に食べ歩きをしながら、思い出めぐりの帰り道を歩いた。
当時小学生っだった彼女が深夜3時に1人でクワガタを採っていた電灯、それから一緒に帰りながら見た星空など、思い出の場所と道をめぐりながら話して歩いた。
彼は彼女との会話で、時には弟と衝突しながらも、互いの距離を縮めつつ成長している事に気付いて喜んでいた。
そして、とうとう彼女の家に着いたところで思い出めぐりの散歩は終わりとなった。
彼女の顔色からは、物足りなさが有り有りと窺える。
最後になり、徹は彼女を笑顔にしたかった。
「 似合ってるよ 制服 ・・・・・・・・・・・・・・・
もう高校生になったんだなって 思ってた 」
彼は魅力的な女に成長中である事を初めて認め、彼女を優しく褒めた。
今ようやく女として見てくれた徹を前にして、彼女の顔は見る間に好色に染まった。
彼女は静かに息を呑んだ。
この数日、彼女の心の中でずっと燻っていた、彼に言いたい事を言える時が来たのだ。
仕事のストレスを家庭に持ち込まないタイプである。
相手の褒めて欲しいところを気付ける。
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