6巻 episode 24. クリスマス
12月も半ばになり、風早達は残すところ終業式を待つだけとなった。
そこで彼のクラスでは、任意参加のクリスマス会を開催する事になった。
参加条件は、会費の他に800円相当のプレゼントを用意する事になっている。
発案した風早の企画に女子達は快く参加を希望し、黒沼も望んでくれたのだが、娘と過ごす聖夜を毎年楽しみにしている両親のために、彼女だけ諦める事になった。
その代わり、彼女はプレゼントの用意に力を入れた。
いつも世話になっている両親や、仲良しの友達に喜んでもらいたかったからである。
彼女は両親と友達を思い浮かべて、どんなプレゼントにしようか考えながら準備した。
瘦せ型で体を冷やし易い父には腹巻、家事を任されている母にはボア付きスリッパ、真田の店でアルバイトをしている吉田にはエプロン、飲み物が好きな矢野にはコースター、いつも髪を留めたり縛ったりしているEさんとHさんにはヘアピンとヘアゴム。
彼女はこれらを出来る限り手作りで用意した。
毛糸や生地、道具などを扱う彼女の手先は器用で腕が良く、これらのプレゼントは数日の内に仕上がっていった。
この時、彼女は風早にもプレゼントを貰って欲しいと思った。
彼にあげるとすれば、何が良いだろうか。
彼女はぼんやりと想像してみた。
彼が暖かそうに首に巻く手編みのマフラー・・・
彼が嬉しそうに被るニットの帽子・・・
この辺りで彼女は思考を止めた。
編んだところで、きっと渡せないからである。
手編みのマフラーなんて、いくらなんでも思考が恐ろし過ぎると心の中で呟いた。
もし作るとなったら、私の髪の毛を秘密にして沢山編み込んでしまうだろう。
彼女は自身の意外性に驚いていた。
では、帽子ならどうだろうか?
渡せない事に変わりは無いが、編むだけならいいかなあと思った彼女は、彼の笑顔を幸せそうに思い浮かべながら、一つ一つ丁寧に、呪いを込めないよう気をつけて編み始めるのだった。
後日、彼女は教室で友達にプレゼントを渡した。
上質な手作りの品々に、友達は皆が感動して喜んだ。
その賑やかで楽しそうな話声に誘われて、風早がやって来た。
「 あーっ 何それ‼ 」
プレゼントが風早の目に留まった。
彼女達は嬉しそうに見せびらかしている。
風早は、正直に羨ましがった。
そんな彼の横顔を見ていた黒沼。
もしかして・・・貰ってくれるかな⁉
彼女は一瞬だけ期待したが、別に私から貰いたい訳では無いはずと、直ぐに考え直してしまうのだった。
良いところを褒める。
[ 広告 ]