7巻 episode 25. ふたり
明日から冬休み ―――
終業式を終えた黒沼は、吉田や矢野と共にお好み焼き店にいた。
そこで彼女達は、この冬休みをどのように過ごそうか話し合った。
黒沼については、両親からクリスマスプレゼントとして携帯電話を手に入れた事で、これからは何時でも何処でも連絡を取り合える様になっている。
数日後には彼女の誕生日でもある大晦日が控えている事から、彼女の生まれた大晦日の夜に皆で集まり、それから初詣をする事になった。
この時、矢野が特にけしかけるつもりは無く黒沼に言ってみた。
「 ・・・・・・・・・ 今のままだと
初詣は ちづと龍と爽子とあたしのままだよ
別にそれでいーなら いーけど
もし風早に会いたいなら あんたが自分で誘いなよ
爽子
今連絡しないと きっと風早すぐ予定入っちゃうよ
無理にとは言わないよ ・・・・・・ 会いたいなら ね 」
今ここで風早に電話しなければ、彼に会えるのは年明けの3学期になるだろう。
そう思った黒沼は、緊張し始めて震え出した手で携帯電話を握った。
そして、大晦日の夜はやって来た。
黒沼の家へ集まった矢野と吉田は、誕生日を祝いながらくつろいで話し、十分に温まってから出発するのかと思えば、彼女の部屋へ上がるなり早々にヘアメイクと化粧に取りかかった。
おしゃれに敏感な二人が黒沼に手をかけて十数分。
仕上げに誕生日プレゼントの可愛いヘアピンを髪に刺してみれば、そこには初々しくも麗しい彼女が誕生していた。
これは、恋心の芽生えた黒沼が可愛くなりたいと思う様になった気持ちを彼女達が汲んで計画した誕生日プレゼントである。
思いも寄らないプレゼントを貰った黒沼は、良い友達を持った事に改めて感激した事だろう。
これで初詣の準備が整ったところで、彼女達は時間通りに出発した。
プレゼントに幸せいっぱいの黒沼は、雪の降り積もる冷えた夜道を3人で仲良く歩いた。
ところが、待ち合わせ場所までもう少しの所まで来ると、また黒沼の予期せぬ事が起きた。
二人が秘密の計画その2を実行に移すのである。
「 ・・・・・・・・・・・・・・・ さって ・・・・・・・・・
そろそろ待ち合わせ場所も近いし 行こうか ちづ 」
「 そだね やのちん あっ 龍にはちゃんと言っといたから 」
「 オッケー 」
「 じゃあ あたしらは ここで‼
風早と2人で楽しんでね ――!
ほんっと おめでとう爽子 ばいば ―― い‼ 」
「 えっ⁉ 待っ どこへ !!!? 」
「 あたしらのことは いーからいーから
あっ 龍もそっちに行かないからね?
まじ おめでとう爽子‼ 」
「 ええ⁉ 」
「 あっ あとで報告ヨロ! 」
「 なにびびってんのよ 自分で誘ったくせにィ♥ 」
「 ええ⁉ そ ・・・ 」
特に説明も無いまま姿を消してしまった彼女達に、黒沼はどういう事なのか事態を掴めない。
彼女はしばらく当惑していたが、残された一人で待ち合わせ場所に行くしかなかった。
これから彼女は程無くして待ち合わせ場所で風早に会う。
その時に、これも彼女達の計画した誕生日プレゼントである事に、やっと気付くのである。
一方、待ち合わせ場所へ既に到着していた王子は、深々と舞い降りてくる雪に見とれながら、何も知らずに皆を待っていた。
相手を待たせない。
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