7巻 episode 26. 誕生日
待ち合わせた風早と黒沼は、仕方が無く歩き出した。
二人きりの初詣になった事に、風早は黙ったまま彼女の前を歩いている。
彼は黒沼の方を特に見る様子は無く、沈黙が破られる気配は無い。
矢野と吉田がこの初詣のために綺麗にしてくれたのに、彼は全く見てくれない。
彼女は不安だった。
皆で新年を楽しく迎えるはずが、私と二人だけの初詣となってしまい、やはり彼は気落ちして困惑しているのではないかと思い、悲しく塞ぎ込みそうになっていた。
俯いて、ぼんやりしていた彼女は注意散漫に陥り、雪に隠れた参道の石段につまずいた。
「 わ ! 」
「 あ‼ ・・・・・・・・・ ぶな ・・・ 」
黒沼の甲高い声に素早く反応した彼は、間一髪、倒れる彼女の体を両腕で受け止めて支えた。
急接近したお互いの顔を見つめ合う二人に、瞬く間に恥じらいが込み上げた。
しかし、それと同時に彼女は嬉しかった。
私との初詣を退屈そうにして、気にしていたくなさそうに思われた彼が、実はそうでは無く、常に私を意識していなければ出来ないであろう芸当を成してくれたからだ。
今夜の彼は、黒沼がくれたクリスマスプレゼントの腹巻がお腹周りを暖めてくれるが、彼女の華奢な体は冷え始めている様子だった。
彼女は、ようやく彼に話しかけてもらえた。
「 寒くない⁉
12時まで まだけっこー時間あるし
むこう 甘酒配ってるから行ってみよ! 」
二人は温かい甘酒の振る舞いで暖を取ると、硬かった風早にいつもの笑顔が戻ってきた。
彼との程よく甘くなった会話で、黒沼から不安が取り除かれる。
彼女はクリスマスに手に入ったばかりの携帯電話のメールアドレスを尋ねられた。
「 ・・・ 黒沼 メアド 決まった? 」
「 あっ うっ うん ・・・・・・! 」
「 送ってもいい ⁉ 」
彼がメールアドレスの交換を申し出てくれた事に、彼女の意気は上がった。
彼女はまだ扱い慣れていない携帯電話に苦闘しながらも、たどたどしく入力したメールを彼に送ってみると、彼は直ぐに届いたメールを眺めてしばし微笑んでくれた。
彼は、そのアドレスの内容から、今日が彼女の誕生日である事に気付いたようだった。
「 ・・・・・・ 誕生日 いつ⁉ 」
「 ・・・・・・ 今日 ・・・・・・・・・ 」
「 ・・・・・・ あ あと15分で終わるじゃんよ 〰〰〰 ‼
うわ ――― そうだったんだ ―― ‼
ふ ――― ・・・・・・・・・ ギリギリセーフ ・・・・・・
・・・・・・ 誕生日 おめでとう!
もっと早く知ってたら なんか あげれたのにな 」
除夜の鐘が鳴り響き、もう少しで新年が明けようとしている。
何とか間に合わせて誕生日を祝福出来ても、残念さは否めない彼の気持ちに彼女は応えた。
「 もう ・・・・・・ もらってるよ ・・・ 」
二人きりの初詣に、使ってくれている腹巻、もっと知りたい彼についての新たな発見など ・・・
彼には些細な事であっても、彼女は嬉しさや楽しさを受け取っている。
「 ・・・・・・ このくらいの時間なんだよ うまれたの 」
16歳になったこの瞬間に、彼が一緒にいてくれた事が何よりのプレゼントになった。
気を配れる。
頂いた物はきちんと使う。
思い出も素敵なプレゼントに出来る。
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