8巻 episode 31. 遠い?
講習会の後、三浦はグラウンドを一望できる校庭のベンチまで風早を連れ出した。
彼はそこに腰を下ろして、二人を優しく照らす夕焼けでも眺めながら青春を語り合いたかったのだが、風早から見た彼の印象はとても悪いもので、彼の女性好き且つ嫌味で笑えない冗談話には、風早も付き合う気が全くしなかった。
彼は仕方なく早々と前置きを終わらせると、本題としていた黒沼について話し出した。
「 ・・・・・・ 貞子ちゃん 1年の時から浮いてたんでしょ? 」
あんま 貞子ちゃんに絡まない方がいんじゃないかなあ
・・・・・・ 浮いてる奴ほっとけないらしーけど 逆効果だと思うんだよね 」
彼は風早から印象を更に悪くした。
「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ どういう意味?
黒沼が浮いてるとか 浮いてる奴ほっとけないとか
俺 そんなつもりないけど 」
黒沼を浮いた存在だと思った事など一度も無く、浮いた彼女を放っておけないと思って接して来たつもりも全く無い風早からすれば、これは黒沼の悪口を言われたも同然である。
「 見てて可哀相なんだよ 貞子ちゃん
・・・・・・ あんま かまわないでやんなよ
せっかくクラスになじんできたのに
風早が かまう事で貞子ちゃんが女子の反感買ったら
風早としても意味ないでしょ?
それに ―― ・・・ おっと
これは貞子ちゃんの乙女心の部分だから言えないな 」
彼は今、黒沼のために良かれと思って風早に干渉しているのだが、黒沼に好意を寄せられている事を知らない風早には、彼の意図が到底分からなかった。
彼は、風早にかまってもらえる黒沼がねたまれて孤立する心配や、無駄に期待する彼女の恋心を気の毒に思って話を続けた。
それでも彼の主張では、黒沼を孤立させない自信の有る風早を納得させられなかった。
「 ・・・・・・・・・ これ以上無駄に期待させんの かわいそーじゃん 」
「 さっきから かわいそうって なんで?
・・・・・・ 頑張ってんじゃん黒沼
いつ 黒沼が ・・・ 無駄に期待したんだよ 」
「 だから そこは風早にはわかんないところだよ
風早と貞子ちゃんが決定的に違うところだもん
別に わかんなくてもいーと思うんだよ!
そんだけ遠けりゃわかんないのも当然だと思うから‼ 」
彼は終始気に障る態度や言葉遣いで嫌味も言ったが、黒沼を困らせたくないとの見解は風早も同意であったため、それで何とか話の折り合いがついた。
しかし、彼女がいつ何を?「 無駄に期待 」したと言う点は、彼が発言を控えたために二人の認識が異なっている事に気付かず、問題にもされなかった。
挑発に乗らない紳士的な一面を持っている。
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