8巻 episode 32. わかってない
三浦と別れた風早は、夕暮れの帰り道を独り、彼の話について考えながら歩いた。
『 そこは風早にはわかんないところだよ
風早と貞子ちゃんが決定的に違うところだもん 』
この指摘が気になるからといって、彼の言葉が的を射ているとは思っていない。
信頼性の低い彼が言った事なのだから、特に気に留める必要は無いのだが、この時の風早には少々難だった。
そんな時、コンビニに立ち寄っていた吉田が偶然に彼の横を通った。
これは良い機会だ。
そこで彼は、客観的な意見を求めて思い切って聞いてみる事にした。
黒沼と親しい間柄である彼女なら、何か良い話が聞けるかもしれない。
「 ・・・・・・・・・ 俺と黒沼って そんなに違うかな
・・・ 俺 そんなに黒沼のこと わかってないのかな 」
彼の質問に、彼女は素早く答えた。
「 は? わかってないんじゃない? 」
彼女の軽率な一言にショックを受けた風早は、胸に矢が突き刺さるような痛みを覚えた。
確かに黒沼の恋心に気付けていない彼だから、吉田にそう言われても仕方が無い気がするが、彼が黒沼を好きな事に気付けていない吉田が強く言える立場では無いとも思うのである。
「 何さ 急に 」
「 いや ・・・・・・ 別に ちょっと 人に言われたもんだから
・・・・・・・・・ 自分では全然そんな風に思ってなかったんだよ
むしろ 他のみんなよりわかってんじゃないかって思ってたから 」
いつになく真面目な反応を示す彼を不思議に感じながらも、彼女は思った事を言ってみた。
「 たとえば あたしとか やのちんはさー
爽子ほどじゃないけど誤解もいろいろされるし
それなりの陰口もきいてきたから
龍は龍でずっと1年から四番じゃん
先輩からの風あたり きびしい時もあったんでしょ?
・・・・・・ 言わないけどね
龍も爽子も嘘はつかないけど
基本的に聞かなきゃ言わないよね
まあ 近いところ あるっちゃあるかも
風早は ―― ・・・・・・ ・・・ そういう意味では
一番 爽子から遠いのは 風早かもしんないね ・・・ 」
実際に彼は、黒沼のように理不尽な境遇や疎外感を体験して、それなりに人間関係に揉まれて悩んだ事は一度も無い。
吉田の感想を全て聞き終えた彼は、自分の中の黒沼が遠のくのを感じざるを得なかった。
それにしても彼は、吉田に尋ねたのが迂闊だった。
もし恋愛相談に長けた優秀な人の支えが有れば、これから彼の苦労はずっと減るのに・・・。
恋愛相談出来る心強い味方がいる。
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