9巻 episode 34. すきなひと
1年生の頃の三浦には、交際中の彼女がいた。
それに加え、女子友達も多くて話し相手には事欠かなかった。
しかし2年生に進級すると、そうは行かなくなった。
彼女と疾うに別れていた彼は、新しいクラスで女子友達を作る事にも難儀していた様で、その代わり男友達と一緒にいる事が多くなった。
そんな彼にとって、真面目に反応してくれる黒沼に軽い調子で絡むのは楽しかった。
黒沼の隣席の三浦は、今や風早に取って代わって彼女に話しかけるのが普通になっていた。
そして、この昼休み、彼は花壇に水をやる黒沼を見かけた時、喜んで傍のベンチまで誘った。
今回彼の話したい内容は、風早の事だった。
風早が黒沼に好意を寄せている事に気付いていない三浦は、片思いに見える彼女を本当に不憫に思って風早から遠ざけようと試みた。
「 もう風早が どーにかしなくても
貞子ちゃん 立派にやってけるって! 」
彼女に自信を付けてもらおうと、彼は太鼓判を押した。
それでも浮かない表情の彼女が風早にかまってもらいたい気持ちが有る事を認めると、いくらモテても罪な男になるのは考えものだなぁと彼は思いながらも、彼女に理解を示した。
「 カン違いしちゃうのも しょーがないよね
あんな風に 風早に声かけらてたらね 」
この一言が、風早くんから今まで受けてきた好意はやはり皆に対して平等なものであり、私に対して特別なものでは無かったと黒沼に深く思い込ませてしまい、風早のアプローチを今まで受けてきた彼女を完全に誤解させてしまった。
一方通行の叶わぬ恋を見ていたくなかった彼は、ここで黒沼に諦めてもらおうと話を詰めた。
彼は一方的に話されて戸惑うばかりの黒沼を納得させようと、風早から聞き出した最新の情報を伝える決意をした。
「 貞子ちゃん 風早 すきな子いるよ?
・・・・・・ 言わないでおこうと思ってたんだけど ・・・・・・
そんなに風早にふりまわされる事ないんじゃないの? 」
彼の駄目押し言葉に酷く落胆し、肩を落とした黒沼は悲しみのあまり口が利けなくなった。
彼女がこうなってしまうと、もう三浦の声が耳に入らない。
ふらふらとした足取りで立ち去る彼女を引き留めた彼は、思いつく限り慰めの言葉をかけた。
すると彼女が大粒の涙をこぼし始めてしまい、彼はどうすることも出来なくなった。
これ以上、彼女を追い詰める必要は無いのだろう。
彼女の両腕を掴んだ彼から、欲望がとうとう口を衝いて出た。
「 ・・・・・・ なんなら オレにする?
オレ いーよ 貞子ちゃんなら 」
見つめ合う二人に沈黙の時間が流れた。
悲しく打ちひしがれる黒沼は、そのとき覚えのある温かい気配が近づくのを感じ取った。
荒井の助言を受けて意を決した風早が、駆け付けたのである。
三浦は風早の登場に意表を突かれて言葉が出ず、黒沼の両腕を掴んだままだった。
「 何やってんだよ‼
何 泣かせてんだよ‼ 」
風早は、三浦の体を急いで押し退けて、黒沼から引き離した。
強く説明を求める風早と、想定外の展開に驚く三浦の口論が始まり、泣いてばかりいられない黒沼は仲裁に入った。
ここで天は、風早と黒沼に試練を課す事にした。
この大事な局面に水を差すように、野次馬 A、B、Cが現れたのである。
彼らは明らかに怒っている風早と困惑頻りの三浦、そしてその傍では仲裁しながら泣いている黒沼を見て、この状況を面白そうに交代で茶化して笑い飛ばしてきた。
風早は怒っているにも関わらず、野次馬達の発言に冷静だった。
このままでは茶番化されてしまう。
そう思った彼は、この状況を楽しむ皆の前で堂々と、黒沼に告白してみせた。
「 そーだよ すきだよ
俺 黒沼のことすきだよ 」
予想外な彼の発言に、周囲は沈黙した。
果たして、この困難な状況の中、風早の告白は黒沼の心に上手く届くのだろうか。
好きな人に告白する。
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