9巻 episode 35. 好意と迷惑
残念ながら、風早の真摯な思いは空しく、黒沼の心に届かなかった。
三浦のお節介や野次馬達の冷やかしに遭ってしまっては、彼の折角の好意も色褪せてしまう。
「 ・・・・・・ そんな言い方したら 誤解されちゃう・・・・・・・・・! 」
風早には意中の女性がいる事を知ってしまった黒沼が、彼に迷惑をかけまいと、声を発した。
しかし、結果としてその声は風早を窮地へと追いやった。
野次馬達が囃し立てている中で、彼は思った。
若しかして、俺の好意は有難迷惑なのか?
彼女に話しかけると困って見えたのは、そういう事なのか?
そう思うと彼は、急に悲しくなった。
それでも目の前では、彼女が冷やかしを受けて、辱められている。
「 黒沼 (俺の好意が)迷惑なら そう言えばいいんだ 」
彼は寂しげに言うと、悲しい顔を見られる前に背を向けて歩き出し、その場を離れた。
野次馬達から庇ってくれたと勘違いした彼女が、ただ考え無しに後から追って、付いて来る。
彼はとにかくその場から離れたくて、校舎裏の人気のない所まで随分と歩いた。
もうこの頃には、何処かから昼休みの終わりを告げる予鈴が聞こえて来ていた。
彼は、黙って付いて来た彼女に涙の理由を尋ねた。
‹ 風早には好きな子がいるから早く忘れた方が良いと、三浦から助言されて悲しかった ›
などと言えるはずの無い彼女は説明に困ってしまい、代わりに二番目の悲しい理由を挙げた。
「 ・・・・・・ 気をつかわせて ・・・・・・ ごめんなさい
迷惑かけて ・・・ ごめんなさい ・・・・・・・・・ 」
この言葉を聞いた彼は、今までの自分の好意が彼女にはただの親切な気遣いと思われていると受け取る事になり、二人は両想いのはずが、もどかしくも気持ちはすれ違うばかりだった。
彼女にふられた格好となった彼は酷く落ち込み、昼休みが終わっても教室に戻る気になれず、彼女と別れて校舎の屋上に行き着くと、一人身を潜めた。
彼はそこで、優しいそよ風に当たり、遠方の美しい景色を見つめては疲れた心を癒し、冴えた頭で考えた。
君に出会って以来、今これほど好きになっていた事を、俺は改めて考える・・・
黒沼、君に気持ちを受け止めてもらえない俺は、どうすればいいのだろう・・・
俺は、どうして泣かせるほど君を苦しめてしまったのだろう・・・
恋愛するにも体力・気力・知力が必要である。
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