9巻 episode 36. 何を見てるの?
校舎の屋上に身を潜め、そのまま午後の授業を全て欠席してしまった風早。
放課後になると、ようやく彼は学校祭の準備で忙しい仲間達の輪に加わるために、ひょっこりと作業場に姿を見せた。
そこで彼は、心配していた真田に呼び止められた。
彼は、事の経緯を親友の真田にだけは大まかに伝えた。
一人屋上で色々と考えた事で、彼はそれなりに気持ちが落ち着いていた。
彼は気持ちを受け止めてくれなかった黒沼を非難するつもりは無く、これで折れてしまう様な安くて軽い気持ちでも無い様子だった。
また一方で、黒沼も放課後まで教室に戻っていなかった。
校舎裏の、何ともじめじめとした片隅で、一人いじけて座り込んでいたところを、やっと荒井や矢野、そして吉田に発見されたのである。
黒沼から出来事の一部始終を聞けた彼女達は、黒沼が風早の気持ちを全く理解出来ていない事を読み取り、意気地無しで、おまけに鈍感と見て取れる彼女をたしなめた。
風早が黒沼を好きな事に気付いている矢野は、今それを彼女にあえて知らせなかった。
自分で解決出来るはずであるし、他人の助けを借りる様であれば、例え付き合う事になったとしても、その先には理想的な恋人関係が築けない気がしたからだ。
黒沼は、その後何処かから話を聞きつけた胡桃沢にも叱られてしまった。
「 あんた風早の何を見てんのよ‼
わたしは ちゃんと伝えたもの ・・・・・・
・・・ ふられたけど!
・・・ ちゃんと間違いなく伝えた‼
一緒にすんな‼ 」
胡桃沢は、ろくに風早と向き合えずに、好きな気持ちを伝えられないでいる情けない黒沼を、恋のライバルと思っていた自分が恥ずかしく思えて彼女を許せなかった。
彼女達が叱ってくれたお陰で黒沼は目が覚めた。
いつの間にか風早を傷付けて過ちを犯していた事に気付き、彼の心の痛みを知った。
恋愛に奥手で臆病な彼女はようやく前向きに、自身の恋を見つめる事になる。
失敗は成功のもとになるよう省みる。
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