9巻 episode 37. あきらめちまえよ
学校祭の準備に追われ、腹が空くと思えばもう日が暮れていた。
遅れ気味である山車作りを友達の家で続ける事にした風早達は、学校の裏門からこっそり運び出すところを荒井に見付かってしまった。
思えば今日の風早は、昼休みに食堂で荒井に励まされてから姿を見せていなかった。
そんな彼は、直ぐに荒井の目に留まった。
クラスメイト達が作りかけの山車を押して出て行くのを見届けると、黒沼が落ち込んでいた事について荒井から幾つか問い詰められた。
彼の話に荒井は、黒沼から聞いた話と食い違うものの、つまり彼の告白が意味を成さなかった事を知り、彼を未熟者扱いして軽く笑ってやった。
それに苛立った彼は、自分を肯定して荒井を追い払おうとするのだが、教師の荒井からすれば彼はまだ青二才に見えた。
荒井は彼を、けしかけてみた。
「 おまえ『 黒沼のことわかってねー 』とかなんとか言ってたけど
基本 自分の事で いっぱいいっぱいだもんな!
いんじゃねーか? んなもん あきらめちまえよ‼ 」
荒井が浴びせた言葉は上手く彼の心理を突いて、揺り動かした。
彼は校舎裏で黒沼に告白し直した事も有って、言うべき事は言ったつもりだったのであるが、荒井の「 あきらめちまえよ‼ 」との捨て台詞が、無性に彼の反抗心を煽った。
彼は精一杯告白出来たのか、想いをきちんと伝えられたのか、今一度、素直に考えてみた。
黒沼との関係が壊れたままの失恋なんて、到底納得したくない彼は、彼女への強い想いを再び確認した。
以前まで、彼女には何時も自分のやりたい様に接してきた風早であったが、彼女の立場や考えをもう少し尊重して、彼女の気持ちを理解しようと努める事に決めた。
後悔する生き方をしない。
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