2巻 episode 4. 噂
学校では、いつも人気者の風早。
彼を取り巻く環境は、普通では経験出来ない刺激の有る毎日を約束してくれるが、やはり大変な事も多い。
ある日の朝、いつも通りに登校した彼は、教室へ向かう途中、クラスの副担任を務めている荒井 一市に呼び止められた。
体育教師であり、野球部の監督でもある彼は、大柄で声も大きな若手の教師でり、男子生徒達の兄貴分のような存在となっている。
チャイムが鳴る前に教室に着かなければ遅刻扱いになってしまうのだが、彼に捕まった風早は体育教官室まで連れて行かれ、そこで話し相手をする事になった。
風早が腰を据えて椅子に座らされると、荒井は奇妙な事を話し始めた。
「 俺 ゆうべ ちっちゃいおじさんみたんだよ
ゆうべ 酒をのんでいたら
おちょこの周りを ちっちゃいおじさんたちが
何人も何人も くるくるくるくる回ってるんだ
そのうち 小っちゃいおじさんたちは1人、また1人と
おちょこの中へ入っていくんだが その入り方が‼
1人が台になって よじ登ってやがる‼
でも そうすると
だんだん おじさんの数も減っていくだろう?
最後の1人はどうすんのかな ―― ・・・・・・ って
じっと見てたら なんと 最後のおじさん‼
先に入ってったやつに手―ひっぱってもらって中に入ったんだよ‼
な‼ すげーだろ‼ な !!! 」
朝の忙しい時にここまで連れて来て、どんな話をするのかと思っていれば・・・。
そんなこと、あるはずが無い。
昨夜の晩酌時にアルコールで気持ち良く頭をやられて、幻覚でも引き起こしたのだろう。
風早は多分そう思っていたが、自慢げに嬉しそうに話し続ける彼を目の前にして、それを否定する事が出来なかった。
しかし、これを冗談話として捉えれば、面白く聞いていられる。
この時もっと時間に余裕が有れば、彼はもっと話を掘り下げて話に付き合っていた事だろう。
話でもてなし、楽しませる事も魅力の一つだと知っている彼ならユーモアの有る話が出来る。
飲酒を自制するよう窘めるのは良いが、そこにいるだけで心地良い空気に変えられる彼なら話に乗ってあげるのも良い。
ユーモアがある。
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