10巻 episode 41. 祭りのあと
二日間かけて行われた学校祭が幕を閉じた。
人々の笑顔、歌声、そして幻想的だった全ての情景が今、思い出として閉じられた。
ここ数週間、生徒達は部活動や勉強などに加えて学校祭の準備を意欲的に取り組んで来た。
忙しく充実した毎日を送って来た者達は心地良い余韻に浸ろうと、この日、打ち上げをする事になった。
これから新しいスタートを切り、新しい関係を築いていく風早と黒沼は、二人で待ち合わせてから一緒に打ち上げ場所へと向かった。
お互いに物慣れず、照れくささを感じ合いながら、二人は初めて感じる新鮮な関係を何気ない会話の中で味わっていた。
場内では、幹事を務める彼の友達が大いに盛り上げてくれた。
学校祭を通じて生まれた強い仲間意識を分かち合い、お腹と気持ちが満ち足りた所で、その後は元気の有り余る皆で自由に海辺を散歩した。
ヤシの木をモチーフとした街路灯が可愛らしく立ち並び、その明かりに照らされた浜辺が白く長く、どこまでも続く。
皆と少し離れた二人は、打ち寄せる波の音に耳を澄ませながら浜辺を歩いた。
彼女はお付き合いが始まる事が夢の様で、まだ実感が無かった。
そんな彼女との会話から、彼は届けた想いが甘い事に気付いた。
もう二人の想いが一緒なのはわかっていても、彼は恋人として付き合うために大切な事を彼女に言いそびれていた事に気付いたのだ。
今、皆と離れて二人きりになり、互いに向き合って先の話をしている彼にとって、気持ち良い潮風と雰囲気の中で、それを伝えるには絶好の機会だった。
「 こんな大事なこと 黒沼に直接言うの すっとばして
・・・・・・ 前になんか 進めないんだった 」
彼は偽りの無い真心で、正式に交際を願い出た。
「 俺と つきあって下さい!
ずっと 大事にするから 」
彼の「 ずっと 」という言葉から、「 永遠 」を憧れた彼女は幸せで胸が熱くなり、彼の正式な交際の申し出に感激で身が打ち震えた。
頼もしい仲間がいる。
人を感動させるのが上手い。
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