10巻 episode 42. 爽子とくるみ
翌日、校内ではあちらこちらで風早と黒沼の関係が話題に上がっていた。
今朝の教室には、彼に詳しく話を聞きたい大勢の者達が押し寄せており、その中には他クラスの生徒達まで見受けられる程だった。
彼に恋する多くの女子達が事実関係を求め、そして嫉妬心に燃えて陰で悔しがる者がいれば、寂しがり、悲しみに暮れる者もいた。
彼は、これらの人全員に納得してもらい、変な噂や誤解を生まない様にする必要性を感じた。
そのため、傍で黒沼が黙って見守っている中、彼は真実を包み隠さず素直に話し、彼女が自分の恋人になった事を、皆の前ではっきりと公言したのだ。
まるで有名人の記者会見の様に、質問攻めに遭っては説明を求められた風早・・・。
そんな彼にはプライベートやプライバシーの保護なんてものは考慮されなかったが、なんとか朝のHR前には人だかりが無くなり、教室が通常に戻るのだった。
この日はその後も、幸いな事に彼女に嫌がらせを働く者は現れなかった。
彼は、恥ずかしがりな彼女を面倒な事に巻き込んでしまった気がしていた。
そこで、掃除の時間、彼女が大きなゴミ袋を二つ両手に提げて教室を出た時に、彼女の顔色を伺ってみた。
「 ・・・・・・ 大丈夫だった?
みんなに言った事 ―― ・・・ 」
そう言って、彼は黒沼の持つ大きなゴミ袋を一つ手に取った。
「 持たせてよ 彼氏の特権で!
黒沼の役に立つのは 俺の特権! 」
涙もろい彼女の事だから、恥ずかしさの余り、また泣いてしまうのではないかと心配した彼であったが、それは無用だった。
悪い噂や誤解を生まない様この先の事を考えて、恋人として健全に交際する旨を皆の前で公言してみせた彼は、彼女から更に好感を持たれていたのだ。
モテても調子に乗らない。
彼氏の特権の一つに、彼女の役に立つ事が挙げられる。
大切な人として扱っている事を意識させられる。
[ 広告 ]