11巻 episode 45. もうすぐ夏休み
風早の恋人として、新しい関係を始めた黒沼は毎日が幸せだった。
彼女に羨ましい、妬ましい視線を送る者は存在しても、かつての様に、彼女に悪事を働く者は疎か、文句を言う者もいなかった。
しかし、幸福な日々とは裏腹に、最近の彼女には自責の念に苛まれている事があった。
風早の誕生日を確認するのが遅かった事だ。
彼女は以前から誕生日を知りたいと思っていたにも関わらず、いつもの受け身の姿勢が機会を作らぬまま月日が流れてしまったのである。
5月に誕生日を終えてしまった風早くんが、今こうして私の席まで来て話しかけてくれる。
嬉しいことなのだけれど、風早くんの優しさに触れていると、後ろめたさを感じてしまう。
色々としてくれた風早くんからは誕生日プレゼントを貰っておいて、私ときたら彼に何もしてこなかったなぁ。
バレンタインデーの日以降、私が風早くんを何かしら悩ませてきたのかと思うと、どうしても罪の意識を感じてしまう。
私の心中を知る由も無く、風早くんはただ笑顔が止まらず話しかけてくれる。
風早くんの笑顔に触れていると、こちらも楽しくて自然と笑顔になってしまう。
本当に風早くんは、笑顔ひとつで私の気持ちをほどいてくれるんだな・・・。
⦅ ・・・・・・ 遅くなったけれど ・・・・・・ どうやって 何から返していこうかな ⦆
風早としては、これまで黒沼と接したくても上手くいかない状態が続いて来たために、黒沼と一緒にいるだけで笑みがこぼれるのは仕方が無かった。
二人のやりとりを傍で聞いていた矢野や吉田達は、その場を離れて二人きりにさせておいた。
普段、風早に群がっているクラスの仲間達でさえ彼をそっとしておいた。
クラスメイト達は仲良く話している二人が微笑ましかった。
お陰で黒沼は周囲の目を気にせず、自然に風早と会話を楽しむ事が出来た。
そして下校時には、クラスの仲間達がいつも通り風早に群がって来ても、彼は黒沼と帰る事を優先した。
学校祭を機にカップルの増えた北幌高校に、もうすぐ夏休みが訪れる。
恋人や仲間達と仲良く夏休みを謳歌する予定の人、これから恋が始まる予感のする人、部活を頑張る人、勉強や講習、補習などを頑張る予定の人、過ごし方は人それぞれでも皆が夏休みの到来を待ち望んでいた。
人前では節度を守る。
友達以上に恋人を大切にする。
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