13巻 episode 54. 出会い
北海道の短い夏が寂しくも過ぎ去り、北幌高校は二学期を迎えた。
夏休みを思い思いに過ごした生徒達は、元気に学校生活を再開していた。
夏休みが終わっても、また次の楽しみがやって来る。
風早のクラスだけは誰もがそう思えた。
そう、2年生にとって二学期には、一大行事の修学旅行が有る。
修学旅行は豊かな学びを得る教育活動としての位置付けの他に、女子達の間では学校祭と同様にカップルの成立し易い行事として密かに認識されており、良い思い出を作ろうと事前に計画して楽しみにする生徒達が大勢いた。
旅行の詳細が4泊5日の沖縄と決定したある日の事、彼のクラスでは荒井の説明を受けて修学旅行のグループ分けが行われた。
恐らく彼と同じ班になりたかった者が大勢いた事だろう。
引く手数多な人気者の彼だから、面子を決めるのに結構揉めるかと思われたが、全員が上手く班を作れた様子で、彼の班は黒沼といつもの愉快な仲間達で構成される事になった。
修学旅行に関する是非は色々と有るが、全ての生徒が楽しめる旅行になる事を祈るばかりだ。
「 それぞれ班長決めろよー 」
荒井の一言に、黒沼は反射的に思った。
( 班長‼ なった方がいいのかな )
これは、人の役に立つのが好きであり、他人が嫌がる仕事でも進んで取り組む彼女の性格から成る条件反射の様なものだった。
彼女を1年生の頃から意識して見て来た彼は、今の彼女がどんな思いで何を考えているのか大凡見当がついた。
そして、彼女の肩を指先でトントンと優しく触れてから合図を送った。
( 俺がやるから大丈夫だよ )
彼は茶目っ気の有る仕草で自分の意思を示すと、班長の役を買って出た。
彼は気持ちを察する事が出来ただけでは無く、目と目で彼女と思いを通じ合う事が出来た。
交際から数ヶ月が経ち、何気ない学校生活の中でも成長している事を彼女に気付かせた。
放課後に班長会議に出席する彼は、彼女には少し誇らしげに見えた。
「 待ってても ・・・・・・ いい ・・・? 」
彼女が彼に尋ねた。
「 うん! 」
彼はにっこりと爽やかな笑顔を見せた。
恋人関係が板に付いて来た二人の、少し微笑ましいやり取りを傍から見ていたクラスの皆は、優しく羨ましそうに二人を眺めていた。
時には言葉に出さなくても以心伝心で分かり合える。
[ 広告 ]