14巻 episode 56. 朝から夜まで
―― 修学旅行の2日目 ――
沖縄を訪れている風早達に、楽しい旅行が本格的に始まった。
日差しの強い快晴となったこの日、最初の訪問先は水族館であった。
到着した一行は正面入口で集合写真を撮り、それから班に分かれての見学となった。
風早と黒沼は、仲睦まじい関係を皆に見られて冷やかされていた。
二人は一緒に施設内を見学して周りながら、共有出来た驚きや感動、喜びや楽しみの瞬間を、一つ一つ逃さぬ様にカメラのシャッターを切っていた。
あれも、これもと良き思い出になりそうで、彼女は幸せを噛み締めた。
修学旅行のついでに水族館デートを楽しむ二人。
もし彼が恋人になっていなかったら、彼女の修学旅行は少し味気無くなっていただろう。
それだけではなく、彼女の高校生活自体が変わっていたはずである。
彼女の高校生活には、記憶のページを捲ると、いつもそこに風早がいた。
彼女にとって、彼は恋人だけでは収まらない、かけがえのない人になっている。
レンズを向ければ弾ける笑顔でポーズを決めてくれる彼に、夢中でシャッターを切った。
ホテルに戻った一行は、プライベートビーチで自由時間を過ごした。
青く澄んだ美しい海を見渡せる、白くて柔らかい砂浜に来た風早と黒沼。
何処までも続く白い砂浜と青い海に見とれている二人は、この目の覚めるような美しい海岸線の景色に気分が高まった。
誰の邪魔も無く、二人で仲良く砂浜に腰を下ろして絶景を眺めていると、次第に彼の頭の中で色々と妄想が膨らみ始めた。
気分を盛り上げてくれる絶景の雰囲気に飲まれた彼は、自分が一段と大人になった気がした。
このままでは彼の頭の中で、彼女との妄想がいたずらに膨らんでいく。
そんな彼に魔が差して過ちを犯さない様に、理性だけが彼に働きかけてくれた。
ふと彼の脳裏に思い浮かんで来た、彼女の父が願っている愛娘との健全な交際。
『 風早くん 爽子をよろしく よろしく よろしく ・・・・・・ 』
ふと思い浮かんで来た、彼の父が願っている説教じみた台詞。
『 くれぐれも! 節度を持って‼
『 生活能力のない子供ならば
その たかだか子供なりのつきあいを !!! 』
父の主張する筋の通った台詞に耳を塞ぎたくなりつつも、重々理解しているつもりの彼は、頭に浮かんで気分を台無しにする父を追い払う様に、独り言で生返事した。
「 わあってるよ‼ 」
いつまでも彼女と二人だけで絶景を眺めていたい風早だった。
いつも輝いて見える。
約束を守る。
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