16巻 episode 64. 彼氏と彼女
12月になり、北幌の町に根雪が始まろうとしていた。
真田から真剣な気持ちを受け止めて欲しいと強く迫られた吉田は、それからというもの一人の時には呆けながら彼の事を考える様になった。
また、彼と顔を会わせた時には、恥ずかしくてもやり辛い気持ちを抑えて言葉を交わす日々が続いた。
告白された当初、彼女はこんな事を言っていた。
「 ・・・ 龍のこと そういう風に見た事ない 」
一度は遠ざけた彼の気持ちではあっても、今は一人で赤面しながら少し嬉しく思っている。
一方で、風早達は細やかな幸せではあるけれど、健全な交際を続けていた。
キス未遂を後悔している彼は、黒沼の父が娘を想う気持ちに負けない程に、彼の気持ちも強い事を証明する様に彼女を大切にするべきであったし、それに二人の両親が望む交際をする事も求められ、彼女への約束を守るという事は、彼女の気持ちを尊重する事も求められた。
そのために、彼は常に好ましい男女交際というものを模索していた。
彼女からしてみれば、修学旅行まで続いた私への情熱は一体どうなってしまったのだろうかと思いそうな位に、今の彼は謙虚に接していた。
学校で会えば普通に会話して、手や肩に触れるなどの接触は控える様に心掛けて、期末テストの対策には二人で図書室に行って真面目に勉強していた。
彼女は期末テストが無事に終わると、彼のもとへと一番に駆けつけた。
二人でクリスマスを過ごす約束をする事を、矢野に強く勧められていたからである。
「 風早くーん‼ 一緒に帰ろうー‼ 」
微笑んで相槌を打ってくれた彼にクリスマスの話を切り出そうとする彼女であったが、それに被って彼も話しかけてきた。
「 あのさ クリスマス ――― なんか用事ある? 」
彼の質問は、正にこれから彼女が尋ねようとしていた事だった。
「 ううん ・・・ あのね‼
私 今年は家 出れるの!
お父さんとお母さんとも話して 」
彼女の胸がクリスマスへの期待で高鳴った。
矢野に勧められていたとはいっても、彼女の本心はクリスマスに彼と二人きりの甘いひと時を過ごしたかったのである。
しかし、今の彼にその考えは甘かった。
彼女の返答を聞いて、彼は安心した。
去年の彼女がクリスマス会に参加出来ずに寂しい思いをしていた事を、彼は覚えていた。
「 やろう 今年は クリスマス! みんなで! 」
「 ・・・ うん! 」
会話の流れに乗って快く返事したものの、
( ―――― みんなで? アレ? )
と、心の奥に「 みんなで! 」という言葉が引っかかる彼女であった。
かつては恋愛中毒にかかる事の有った彼は、愛の力で自制心が鍛えられていた。
同じ過ちを犯さない。
恋愛に溺れない。
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