風早翔太に学ぶ!モテる秘訣 ‹ 65 ›

16巻 episode 65. 悩みがあるの?

24日の終業式を残すのみとなった黒沼のクラスでは、その夜にクリスマスパーティーが開催される事になった。
幹事をつとめる風早の他に矢野や吉田など、多くの仲間達が参加する様子に、今年の彼女は参加出来る喜びを両親に感謝して話していた。
しかし、彼女はその日を楽しみにしてばかりいられなかった。
何でも吉田の話によると、彼が人に言えない悩みを抱えていると知らされたからである。
休憩時間に仲間達と談笑している彼に目を向けてみれば、確かに彼は何か考え事でもしているのか、仲間達の話がうわの空になっている時が有り、物思いにふけっている様子が観察された。
ぼんやりとした彼からは、時にはストレスに耐えているかの様な表情も見受けられた。
彼女は、吉田に言われて初めて思った。
彼とぎこちない関係が続いていると思っていたら、そういう事だったんだ。
彼の調子が少しずつ変になっていると思い当たるふしが、彼女の記憶にいくつも浮かんで来た。
一緒にいると、彼の動作がやけに遅かったり、不自然だったり、心なしか表情が硬かったり、口数が少し減ってしまっていたり、こちらをあまり見なくなっていたり、一緒に帰っても手は繋がずにポケットへ入れたまま何かを隠す様に抑え込んでいたりなど、思い起こせばこれらは全て彼が悩んでいるサインだった事に気付いたのである。
彼女は恋人でありながら、彼が悩みを抱えている事に気付けなかった自分を強く責めた。
その夜、外では雪が深々しんしんと降りしきり、彼女は暖かい部屋で手袋を編んだ。
彼を想いながら、ひと編みひと編み丁寧に編んだ手袋。
完成した上出来のクリスマスプレゼントを見つめて、彼女はダーリンの悩み事について悶々もんもんとして考えた。
いつも私を引っ張ってくれるしっかり者の風早くんだけど、誰にも相談出来ない悩みを抱えて人知れず苦しんでいたなんて、何とかして彼の力になりたい。
彼から悩みを綺麗に取り去らい、苦しみから救い出したい。
そう思った彼女は翌日になると、彼と二人きりで落ち着いて話せる機会を探した。
そして、一緒に帰る前にようやく人気ひとけのない場所へと彼を誘う事に成功した。
「 あの ちょっと  ・・・ 人気のないとこ いこうー! 」
彼女は周囲の目を気にしながらも慣れない手つきで手招きを繰り返し、彼を教室から廊下へ、廊下から階段へと静かに連れ出した。
ただ事では無いと見て取れる、彼女の切迫した雰囲気に不安になり始めた彼を連れて、二人は立入禁止札の立つ階段を上っておどり場までやって来た。
「 ・・・・・・ な なに ・・・・・・ 」
わざわざこんな所まで連れて来られて何事だろうかと動揺している彼に対して、彼女は冷静に話をうかがうために深呼吸で自身の気持ちを落ち着かせた。
そして、張り詰めた表情で彼を見つめた。
決意したとも受け取れる、彼女の真剣な眼差しは、彼の不安を更にあおってしまい、思わず彼が顔をらした。
彼がそっぽを向いたかと思うと、その場の空気に我慢出来なくなったのか、逃げる様に力無く後退して階段に座り込み、黙ったまま項垂うなだれてしまった。
何処どこか具合が悪化した様に、話を聞きたがらない彼の態度に彼女は心配をつのらせた。
「 ・・・ どうしたの ・・・  話が あって 」
遠くに聞こえてしまう彼女の問いかけが彼の意識に届き、われに返った彼がふと顔を上げた。
彼女は床に両ひざを着いて、彼の袖口そでぐちに優しく両手を添えると、頭を横に傾けて心配そうに彼の顔をのぞき込んだ。
「 ・・・ 悩みが  あるの? 」
彼女は注意深く彼に接して顔色をうかがった。
すると、しばらく言葉を失っていた彼からは、落胆の色が見る間に消えせた。
彼は添えられていた彼女の両手を静かに取って払い下ろすと、冷めた口調で一言だけつぶやいた。
「 ・・・ ないよ 」
すんなりと腰を上げて冷静をよそおうその姿は、まるで貧血から体調が回復した人に似ていた。
心から心配していた彼女の気持ちは、彼から無い態度をとられてしまった事で、むくわれなかった。
「 そっか ・・・
  ( ・・・ 私 ―――――   間違えたかもしれない ) 」
風早くんの悩みって、もしかして・・・
と、つれない彼に今度は彼女が青ざめ始めた。

黒沼は何とかして彼の力になりたいと思った 。

    母性本能をくすぐれる。

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