16巻 episode 67. クリスマスパーティー
終業式を終えて、帰る支度の整った黒沼は、知らぬ間に風早を目で追っていた。
彼は今夜に開くクリスマスパーティーの準備をするために仲間達と教室を出ていく所だった。
この場面は去年も見ている。
彼女はそう思いながらも、実態は全く異なる事を認識した。
今年は恋人として彼とクリスマスを過ごせるのに、彼女はとても不安に晒されていた。
「 あ ・・・ じゃあ ・・・ あとで! 」
彼女と目が合った彼は、素っ気無くそれだけ言って、早々に仲間達と出ていった。
彼に笑顔は無く、この時の態度も冷淡に思われた。
彼女は不安な気持ちを抑えながらパーティーに参加する事を覚悟した。
彼女は用事で先に帰る吉田を見送り、矢野と二人だけで帰り道を歩いた。
今の彼女は自分を持て余すほど不安に襲われていたが、実は恋の悩みを抱えているのは矢野も同じである事が帰り道で明らかになった。
矢野の悩みは、近頃になって頻繁に付きまとってくる三浦に起因していた。
矢野はいつも調子のいい事ばかり言っている適当な三浦の真意が読めないために、彼が本気で自分を好きなのかどうか、分かりかねていた。
恋を経験した事の無い矢野は、彼女自身が望む事も分からなかった。
そこで矢野は、『 好きになる 』とはどんな気持ちなのか、彼への想いを彼女に尋ねてみた。
彼女はいつも相談に乗ってくれる矢野の役に立とうと話してみるのであるが、自分事で精一杯となってしまった今の彼女は矢野の求めに上手く応じられなかった。
( 私とのことで悩んでたんだったら どうしよう
色々後悔してたら どうしよう
もう すきじゃなかったら どうしよう )
彼はいつも彼女を安心させてくれたはずなのに、今はもう考えれば考える程に胸を締め付けて不安を募らせる存在になっている。
手に負えない気持ちになって恋する彼女から、好きな人を想う胸の内を読み取るこ事の出来た矢野は、彼女を羨ましく思いつつも、自分にもいつか本気で恋をする時が来るのかなと笑ってみせるのだった。
日が沈み、パーティーの時間が近づくにつれて、店には続々と参加者が集まって来た。
矢野は条件の良い場所を確保すると、黒沼の隣の席を空けさせた。
「 風早! ここ あいてるからね! 」
「 あ! ・・・ うん! 」
矢野の隣で不安そうに見つめている彼女と目が合った彼にはやはり笑顔が無く、いつもの台詞の『 サンキュー 』さえ口から出て来なかった。
いくら幹事として準備に追われているにしても、この対応は頂けなかった。
こんな些細な事でも彼女に誤解を与えるには十分なのである。
既に二人の間ですれ違いが幾つも起こっているのだから。
彼女を疎かにしない。
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