17巻 episode 69. 守りたいもの
真田は店の入口まで逃げた吉田と見つめ合っていた。
彼女を落ち着かせようと思って見ていた彼であるが、今夜は特別に粧し込んで来ている彼女に見とれてしまった彼の目は、次第に熱き視線へと変わっていた。
黙ったまま見つめ続ける彼の、冷静かつ情熱の炎を宿す熱き視線が、彼女に先程とは全く別の恥ずかしさを与え始めた。
彼が追いかけて来てくれた事は嬉しかったものの、いつまでも見つめられ続けて困った彼女は咄嗟の行動に出ていた。
プレゼントを持ったままの両手で、彼の体を押し除けようと精一杯に力を入れたのである。
「 ・・・・・・ ん! 」
しかし、腕力に自信の有る彼女であっても、日頃の部活動で鍛えている体格の良い壮健な彼は殆ど動じなかった。
彼女は得意げな顔をする彼に悔しくなり、今度は微かに口元の緩んでいる彼の顔にプレゼントを押し付けると、負けじと精一杯に、もう一度押してみた。
「 ん! ん! ん! 」
彼女の不可解な行動に面食らった彼は、流石に当惑してたじろいだ。
「 な 何 ・・・・・・ 」
「 いーから‼ やるから‼
何も言わずにもら ・・・・・・・・・
何 早速あけてんだよ‼ 」
何だそういう事かと思った彼は、彼女の話を最後まで聞かぬまま中身を確認し始めた。
彼との何とも甘い展開に恥ずかしくて、彼女がつい子供っぽい行動や怒った態度を見せても、彼は取り乱してしまう彼女をいい気分で見ていられた。
プレゼントの袋から、高校野球児には重宝しそうなリストバンドが出てきた。
リストバンドを手にし、彼はまたしても彼女をじっと見つめた。
「 ・・・ 龍に買ったの‼ 最初っから‼
龍に ・・・・・・ 当たればいいかなって ・・・ 」
彼女は苦し紛れに色々と言い訳を続けた。
身振り手振りで懸命に説明する彼女から、あれこれと言っても子供の頃から野球を頑張る彼をずっと応援してくれる真心が十分に伝わって来た。
「 サンキュ ・・・ 似合う? 」
照れくさがる彼女の前で、彼は嬉しそうに手首にはめて見せた。
彼女は「 ・・・ うん 」と一言返しただけであったが、彼の嬉しそうな表情に、まんざらでもない満足感を得ていた。
「 俺も 千鶴に ・・・・・・・・・・・・ 交換用じゃねーぞ 」
そう言った彼は、両手を差し出した彼女の手の平にプレゼントをそっと乗せると、開けて見てくれるように頼んだ。
彼女が可愛い箱を開けてみると、ピンク色をしたバラのプリザーブドフラワーが咲いていた。
思いがけない中身に彼女は驚いた。
「 ・・・・・・ なぜ ・・・・・・ これをあたしに ・・・・・・・・・ 」
彼は当たり前の様に答えた。
「 え 千鶴みたいじゃない? 」
彼女は思った。
( どこが あたし⁉ ――――― それとも 龍には あたしが こう見えてんの⁉ )
そして、彼に背を向けて、箱の中で可憐に咲き誇るピンクのバラをもう一度覗き見た。
彼女は、息を吞むほど美しいピンクのバラ一輪に、何かを感じてくれた様子だった。
言葉や態度で気持ちを表現する事が苦手な彼は、プレゼントで彼女への愛を確かに表現する事に成功した。
彼女がそっと彼の方を振り向くと、彼は暖かい目で満足げに微笑み返した。
「 もっ 戻ろ!!! 」
彼のペースに持ち込まれている事に気付いた彼女は、慣れないやり取りから逃げようとした。
「 だめ もーちょっと こーしてよう 」
彼女の手首を掴んで引き留めた彼は、彼女から伝わってくる今までとは微かに異なる感情を、もう少し味わっていたかった。
自分の想いを相手に正確に伝えられる。
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