17巻 episode 70. 大事にする
女の子を誑す才智に長けている三浦には、仲良くしている女子友達が複数人いた。
その彼女達が揃って去年と同様に、彼と楽しくクリスマスを送る予定でいたのであるが、彼はそれを断り、今年のクリスマスを矢野の出席するクラスのパーティーに賭けていた。
気になる女性に対して積極的な彼は、何とかして付き合いたいとの思いから、彼女への距離を地道に詰める努力をこれまで続けて来ていた。
そんな彼は、女性が喜ぶポイントを先天的に心得ているのか、パーティーではいつでもモテる男を発揮した。
しかし、その言動は彼女にとって面白くなかった。
彼は誰にでも思わせぶりな態度を示す人として彼女に捉えられてしまい、私への好意はやはり遊び半分なのかと疑われるばかりであり、彼女の警戒を解けなかった。
この様に、これまで彼女に苦戦を強いられて来ても決して諦めなかった彼であるけれど、ここへ来て痛い悲劇に見舞われてしまった。
足元に隠して置いていた彼女へのプレゼントを、そそっかしい仲間にうっかり踏みつけられてしまい、彼は悲鳴を上げた。
彼女にプレゼント( バラの花束 )の存在を隠していた彼は、席を外してトイレで中身を確認するしかなかった。
花束の酷い状態を見て、ため息を漏らす気の毒な彼であったが、気持ちを切り替えていると、そこへ一人の男がトイレに入って来た。
見覚えの有るその人物は、彼女の元彼氏であるM君だった。
偶然この店に遊びに来ていた他クラスのM君は、彼女の即席彼氏だっただけに、修学旅行の間しか続かなかったわけであるが、彼の記憶には強く残っていた。
M君と別れた事を知ったあの日あの時、彼女が見せた涙の理由を知りたいと思っていた彼は、この絶好の機会にM君との会話で彼女と何が有ったのかを探ってみた。
話のやり取りを続けるうちに、涙の理由はやはりM君に非が有ったからだと突き止めた彼は、その内容から私利私欲のためだけで交際に及んだ彼が許せなくなった。
可愛い女の子の味方だと自負する彼は、彼女を泣かせたM君を強く責めた。
私利私欲が有るのは彼も同じでも、彼がM君を強く責められたのには訳が有った。
彼は異性の友達が多くて交際経験も豊富であっても普通の誑しでは無い。
彼は個性的な自分といつまでも仲良く出来る恋人を見付けられる様に願って、色々な女の子と話を通じて仲良くしていたのであり、彼女達を傷付ける事は一切しなかったからである。
喧嘩騒ぎを聞いて駆けつけた彼女に、普段とは別人の荒れた醜態を見られてしまった彼は、非常階段を上ってその場から離れると、頭を冷やしながら身を潜めた。
いつも心が広くて大らかな彼を怒らせたM君は、駆けつけた彼女に心から謝るのだった。
彼が雪風の吹く非常階段に隠れてから、どれだけ時間が経っただろう。
痛みの響く右手をさすりながら、彼は時間をとても長く感じていた。
虫の居所が悪い時に愚かな事をしたと反省しつつも、M君への嫉妬心は止められなかった。
ボロボロになった花束を手に、寒さと悔しさで心が惨めになりそうな時、彼女が姿を見せた。
「 ・・・・・・・・・・・・ あやねちゃん ・・・・・・
なんで そんなカッコで! 寒いよ‼ 」
「 ・・・ いーの 」
「 よくないよ‼ 」
彼は、心配して来てくれた彼女に自分の上着を脱いでかけた。
「 ・・・・・・・・・ は ・・・・・・・ カッコ悪いな ――― 」
彼は落とした花束を拾い上げ、両手で彼女に差し出した。
「 ・・・・・・ クリスマスプレゼント ・・・ ボロボロになっちゃったけど 」
それでも彼女には、彼の痛めた右手とボロボロの花束が愛しく思えた。
「 ・・・・・ 痛かった ・・・・・・・・・・ ? ・・・・・・・・・・・・ 馬鹿だね! 」
真紅のバラの花束を受け取る彼女に、彼から初めて情熱が伝わる。
「 すきだよ あやねちゃん
もう あやねちゃんの後ろ姿 見送んのはいやだ
オレ あやねちゃんが かわいいよ
あやねちゃんが だいすきだよ
不器用で おひとよしで
・・・・・・・・・ すきなんだよ すきだ!
今まで誰もすきになってないなら オレをすきになってよ
今すぐじゃなくていーよ オレをすきになって
オレが大事にする あやねちゃんを大事にする 」
そして、彼の熱意が彼女に感動を呼んだ。
「 ・・・・・・・・・・・・ うん ・・・・・・ 」
雪風と共に散りゆく花びらもまた美しいままに、今ここに新しいカップルが誕生した。
女性受けを意識している。
相手を大切に思っている。
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