18巻 episode 72. 45分
風早は、これまで保ってきた距離など何処かへ忘れて黒沼を抱き締めていた。
「 すきだよ だいすきなんだよ‼ 」
彼女を大事にすると約束して交際を続けて来た事が、いつの間にか彼女に寂しい思いをさせてしまい、挙句の果てには傷付けて泣かせるという大きな失敗を招いた。
彼女を大事にするために正しいと思ってして来た事は、ただ彼の自己満足に終わってしまう事が多々あり、彼女が望む事は何も無く、いくつもすれ違いを生んで来た。
そこで彼は今すぐ話し合いが必要である事を感じた。
二人は黒沼家に電話を入れて、少しだけ時間を与えてくれる様に両親に申し出た事で、45分という貴重な時間を手に入れた。
二人は両親に深く感謝して、近くのおしゃれなカフェで暖を取る事になった。
落ち着いて話し合える席に着き、同じ飲物を注文した二人 ―――
「 ・・・ ごめん 」
先ず彼は失敗を謝って、今まで何を考えて行動して来たかを包み隠さず全て話す事で、自分がどれほど彼女を想っているのかを正直に語り始めた。
「 修学旅行の時みたいに ―― すぐ とぶよ 理性なんか 」
と、自分を常に戒めなければ危険だった事を述べている。
彼は自身の行動を振り返って、
「 ・・・ はずかしいけど カッコつけたかったのかな 」
とも、猛省しながら話している。
彼女の前では常に男らしく格好良く有りたい彼にとって、彼女に甘えるのは意志が弱くて格好悪い事と認識していたのかもしれない。
自分に対して正直に生きる彼だから、向こう見ずで頑固な性格が出た面も有る。
しかし、失敗したとはいえ、彼女を大事にするために、ずっと自分を戒めて我慢して来られた事自体は称賛に値している。
これは、彼女への愛が本物である事の立派な証明になっている。
作品の世界のみならず、実際にこの現実でも女性から高い人気を得ている彼は、やはり女性を見る目があり、恋人を大切にするいい男と言える。
彼の彼女への気持ちは留まる所を知らず、全く冷めなかったのであるが、世の中には飽き易い人や、合わなくなって別れたくなる人などもいる。
その事を踏まえると、恋愛で失敗しないためには交際相手を良く見極める力が求められている様に思う。
帰り道で、彼女がどのような心境に陥っていたのかは、人それぞれの見解に委ねる所で、
⦅ 彼はこんな人ではなかった ⦆
⦅ もう一度、私だけ見て欲しい ⦆
読者が女性であれば、もっと黒沼に近い言葉を思い浮かべる事が出来る。
また、彼女とは異なる意思を持つ人も、いるかもしれない。
とにかく彼と同様にモテる人であっても、自身の非を認めずにすれ違いを繰り返していれば、いずれは失敗して転んでしまう可能性が有る。
転んで大怪我をしないために、女性に見限られてしまう様な、取り返しのつかない失敗だけは絶対にしないと心に誓う。
自分の非を謝れる。
話し合いが出来る。
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