18巻 episode 73. たしかめあって
おしゃれなカフェの片隅で、イルミネーションが明るく照らし導く、二人のこれから ―――
何故この様な事態に陥ったのか、風早は考えながら丁寧に話した。
話を進めていく中で、彼は黒沼への気持ちがより一層強くなっていた事を感じていた。
彼女と出会ってから紆余曲折を経て交際が始まり、恋人になってからも心を奪われる出来事をいくつも経て、彼女への気持ちは強さを増すばかりの毎日。
だから、彼女に飽きるとか、他の女の子に興味を持つ様な事は、これまでに一度も無かった。
彼は話を続けた。
「 黒沼と会うまで 自分が こんなだってことも知らなかった
俺はさ 俺は ・・・ 黒沼が思うような俺では きっとないよ
俺はね 黒沼を誰にも渡すつもりはないし
・・・ すきだよ すきなのに すきだから
大事にできないのかもしれない
それでも 絶対離したくないんだよ
黒沼を傷つけたりするのは 他の誰より俺かもしれないのに 」
彼は心の奥深くに存在する本当の自分を、彼女と接するまで彼自身も知らなかった。
こうでありたいと望む理想の自分を追求していても、彼女を独り占めしたいと思う欲望が抑え難く出て来てしまう。
その欲望に負けじと気を張り続けた彼は、葛藤の末、自分勝手に彼女を扱ってしまった。
「 すげーだめなんだよ 」
と、思い通りにならない自分の弱さを認めた。
鍛えて来た自制心のはずが、いつの間にか制御しきれずに無理や誤りが生じていた。
彼の話に黙って相槌を打っていた彼女は、彼からずっと愛され続けていた事を知った。
彼女に色濃く溜まり続けていた不安は、彼の言葉一つ一つによって一挙に解消されていた。
彼女は思った。
彼はずっと、信じるモノを持って頑張って来たんだ。
ただ今回の様に、その結果が良い事ばかりではなかっただけ。
あなたが見せる嘘の無い笑顔が、どれほど私と皆を明るく幸せにしてくれたかを気付かずに、今の私がどれほど嬉しい言葉をもらったかを気付かずに、風早くんは自分を心が狭くて勝手で怖いと言う。
そんな彼を庇う様に、今度は彼女が話し始めた。
「 気づいてないの ・・・・・・・・・?
私を傷つけられるのは きっと風早くんだけだよ ・・・・・・・・・
他の人には動かない 心が動くの
これから先も ぎくしゃくしても ケンカしてもいいの
でも ぎくしゃくするのも ケンカするのも ・・・・・・・・・ 風早くんがいーの 」
彼が本当の自分を包み隠す事無く、弱みまでさらけ出して話してくれたから、二人は気持ちを確かめ合う事が出来た。
( 相手の 背中ばかりを追うのが片想いだとしたら
私たちは ほんとうは
私たちは 目を合わせて ・・・・・・
みつめあうことが できるはずなの ・・・・・・・・・ )
手を取り合い、理解を深め合った二人には、この先に待つ、眩しいくらいの明るい未来を共に笑いながら歩んでいける姿が見えた。
( どうか ・・・ どうか 確かめ合って いけますように )
愛はお金では買えない ―――
これは、異性をお金で解決する者へ向けてよく使われる常套句の一つ。
お金で解決出来る財力が有る事はとても羨ましい限りであるが、風早と黒沼の様に純粋な真実の愛を手に入れる事の方が価値が高く、より羨ましい。
それは、お金ではなく、本人を愛すべきだと思うから ...
愛情を大切に育てられる。
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