風早翔太に学ぶ!モテる秘訣 ‹ 74 ›

18巻 episode 74. 女子会

二人で手を取り合い、山を乗り越えて一回り成長した風早。
彼は黒沼を家の近くまで送り届けてから数時間経った今でも、帰りに起きた一連の出来事が、まだ頭の中を駆け巡っていた。
ベッドで目を閉じていても、眠れる気配は一向に訪れず、彼女の事ばかりを思い返す始末。
恋人と、ついに交わしたキスの味、思いせてはよく噛み締めて・・・。
時計の針が進む音に、ふと気付けば、時刻はもう2時半を回っていた。
( 眠れるわけない‼ )
思考を止めない頭のせいで、いたずらに時間ばかりが過ぎていく。
『 ♪♪♪♬♫~ 』
そんな時、彼の携帯電話が突然、光と共にお気に入りのメロディーを楽しくかなで始めた。
黒沼の事が頭から離れない彼は、短絡的に彼女からの着信だと思って素早く携帯を取った。
この眠れぬ想いは、きっと俺だけじゃない ――――
離れていても、もう心はずっと一緒なんだ ――――
彼は愛しい彼女の顔を思い浮かべながら歯切れ良く答えた。
「 はい もしもし! 」
しかし、こんな深夜に電話をかけてくる人物など、常識からして彼女のはずは無く、彼の甘い期待は綺麗に切り捨てられた。
「 あっ 風早ん? 」『 ピッ 』
謎の男の音声に失望した彼は、無意識に素早く通話を切っていた。
残念な思いが、彼を現実へと引き戻した。
すると、間髪入れずにまた携帯が鳴り始めた。
『 ♪♪♪♬♫~ 』
この電話番号は、彼のアドレス帳には登録されていない。
こんな深夜に平気でかけてくる、俺の携帯に登録してない奴なんて・・・一体誰 ?
静まり返った部屋の中、携帯だけが早く出てくれる様に光を放って鳴り響いている。
お気に入りの着信音でも、この時だけはうとましく感じながら、彼は再び通話ボタンを押した。
「 ひどいじゃあん 切っちゃうなんて 〰〰  オレオレオレ!  ケン‥ 」『 ピッ 』
酔っ払いからの間違い電話か、又はオレオレ詐欺なのかと思わせる口調に苛立ちを覚えたが、ケンまで聞き取った彼は、つい携帯の終了ボタンを押していた。
『 ♪♪♪♬♫~ 』
それでもめげずにしつこくかかってくる電話・・・。
これには彼も、仕方無く対応した。
「 風 」「  悪かった 」
「 ひど 」「 悪かったって‼ 」
俺の電話番号を誰かつてから聞き出して、深夜でも平気でかけてくる奴の方がずっと悪いと示唆しさしながらも、彼はとりあえず謝った。
( ま でも  なにげに こいつも 本音ほんねしゃべれる相手なんだよな )
彼がこう思った様に、三浦は付き合い方さえ間違えなければ実は結構面白くていい奴であり、根は友好的な奴である。
「 で 何? 」
と、仕方無く要件を聞く彼に、三浦は嬉しそうに話し始めた。
「 やっぱ風早には報告する義務がね‼ あると思って! 」
「 義務?  なんだよ 」
「 あ ―― 聞きたい⁉ しょ―がないな 風早は‼ 」
「 も いーから それで 」
「 あやねちゃんと つきあうことになりました ――― ‼ 」
( パチパチパチパチ ―――  )
お喋りな三浦の事だから、嬉しさを誰かと早く分かち合いたかったのだろう、深夜であってもお構い無しで彼に電話したのだった。
「 ・・・ そか  うん  よかったじゃん 」
矢野をどうしようもなく好きだと熱く語っていた三浦を知る彼は、感慨かんがい深くなって三浦の努力が報われた事を切に喜んだ。
微笑みと喜びの伝わる彼の声に、三浦はいやされた。
やっぱり電話して良かった・・・
やっぱり風早とは話せる・・・
そう思った三浦は、得意になって軽快に話を続けた。
深夜にも関わらず、異常に元気な三浦から、言葉が止まる事を知らず口をいて出て来る。
彼がこの話を女の子の様に長くなると予感した時には、もう手遅れであった。
いつまで聞いていても見えてこない話の終着点。
相手を逃がさない、話を終わらせないたくみな話術。
三浦に捕まった彼は、不覚にも、夜が明けるまで長話を聞かされ続けた。

三浦の報告を、満足するまで聞いてあげた。

    聞き上手である。

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