19巻 episode 78. 選択肢
三学期を迎え、進路面談が始まった。
担任の荒井から指示された通り、黒沼は冬休みの間に自分の将来を色々と考えて来たのであるが、その詳細は、どれも荒井が納得出来る内容では無かった。
進路調査票を手に、彼は問いかけた。
「 ・・・・・・ 一応聞くけど ・・・
おまえ これ よく考えたのか?
将来 自分が何になりたいか 考えたこと なかったのか?
今まで 何考えて生きてきた?
俺が言いたいのはな
おまえには 選択肢が見えてないんじゃないのかって事なんだよ
自分には無理だとか 向いてないとか
つまんない理由で外した選択肢は なかったか? 」
荒井が手にする彼女の進路調査票には、第1希望から全て、『 地元就職 』と書かれてある。
「 おまえの能力はな おまえが思ってるより 高いぞ
だけど おまえには それよりもっと いい長所があるぞ
なんだと思う? 教えてやろうか
おまえはな どこ行っても 何やっても 頑張れる! 」
初めて耳にした自身の可能性と、彼の高い期待に感化した彼女は、彼の言葉を念頭に置いて、もっと真剣に自分自身を見つめて将来を考えてみる事になった。
面談を終えて教室へ戻ると、一緒に帰るために風早が出迎えていた。
彼女の進路については、彼からしても人生に影響を及ぼす重要な事であり、帰り道では当然に進路が話題となった。
「 ・・・ どーだった? 面談 」
「 あ ・・・・・・ うん ・・・
・・・・・・・・・ 考え 足りなかったなって ・・・ 」
それだけでは知りたい事が何も分からず、もっと踏み込んだ話をしたい彼は、これは神経質になり易い話題だけに慎重に話を続けた。
「 ・・・・・・・・・・・・・・・ なんて書いたの? 進路調査票 」
「 ・・・・・・ 地元に就職って ・・・・・・・・・ 」
「 えっ ・・・ 地元⁉ 就職⁉ なんで⁉ 進学じゃないの⁉ 」
「 進学はお金がかかるし ・・・
家から通える就職がいいかなって ・・・ 」
「 あー・・・ ・・・ そう聞くと黒沼らしいけど ・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ ・・・ そっか
黒沼は ―― 地元離れていい大学に進学すると思ってた ・・・ 」
「 風早くんは ・・・・・・ ・・・ なんて書いたの ・・・・・・? 」
「 俺は ――― 地元に残るよ 家を継ぐ
・・・・・・ は ・・・・・・
・・・ 絶対離れちゃうんだと思ってた ・・・・・・・・・・・・ 」
学業成績から考えて、彼女は進学するものと思っていた風早。
しかし、黒沼を見つめる彼の表情には、嬉しさが見られなかった。
高校を卒業しても、離れなくて済むにも関わらず・・・。
責任感が有る。
[ 広告 ]