20巻 episode 80. 好きにしろ
俺が店を継いでやる ・・・
風早は父への当て付けに、そう思っていた。
店を継ぐよう父に言われていた訳では無く、彼が自分で考えて、自分で決めた事。
彼は常日頃から、持病のせいで入院しがちな母の体を心配していた。
長男の彼は、店の手伝いを殆ど任せられない小さな弟の事も考慮しなければならなかった。
それを理由に彼は、高校に進学してからは野球部に属せず、不測の事態に備えていつでも店を手伝える道を選んで来た。
これも、彼が自分で考えて、自分で決めた事だった。
ただ、父の言いなりで野球を続ける事が嫌という気持ちだけは隠していた。
三者面談の時、彼が良かれと思って話した『 店を継ぐ 』という意志は、家族を思って希望したのであり、彼が本心でやりたいと望んだ事では無かった。
長男だからといって、子供の頃から厳しく育てられて来た風早。
彼はずっと、父に道理や理屈で言い負かされたまま、頭を押さえられて育って来た。
「 だからおまえはいつも中途半端なんだ! 」と叱られる度に、反骨心を燃やした。
野球以外の事でも熱血指導の父に一泡吹かせ、一度でいいから対等に話してみたかった。
自主自立して、父の認める存在になりたかった。
そして父と口論になれば、決まっていつも父の最後の言葉は「 好きにしろ 」であった。
その父が、今回の進路の話に限っては「 好きにしろ 」で終わらせなかった。
父が息子の進路希望を初めて知ったのは、三者面談での席である。
店の仕事を愛嬌のある母に任せて、三者面談に姿を見せたのだった。
この父が出席するという事は、それだけ息子に期待し、将来を真剣に考えていると言える。
「 店を継ぐ 」と言ってくれた息子に対し、父は輝かしい後継ぎの誕生を喜んだだろうか。
いや、結果は久々に出た親父のゲンコツを振り下ろし、逆上した息子に「 頭を冷やせ 」と叱責する荒れた話し合いとなってしまった。
期待外れだったのか、むしろ父の方が激高しており、息子よりも頭を冷やす必要があった。
「 店を継ぐ 」だと?
父は息子の感情を見透かしていた。
「 『 継いでやる 』とか偉そうに思ってたんだろうけどな!
俺が作ったものを そのまま受け継ごうなんて 虫が良すぎるんだ!
野球やめたのだって どーせ俺へのあてつけだろう! 」
父の言い分は、良くわかる。
息子の能力を勘案すれば、それでは明らかに怠惰である。
俺は何も、お前がそれを出来ない事に腹を立てて来たのでは無い。
やろうとしない事に腹を立てて来たのだ。
熱血漢な父からすれば、息子は何をしても中途半端に見えた。
お前は俺の息子なんだ!
ある程度の事なら、やって やれない事は無い!
何事も、やらずに やれる事は無い!
立派に何かを成し遂げてみろ!
三者面談の後、落ち着きを取り戻した風早は、黒沼と考えを整理した。
「 俺は ずっと
何でも自分の力でやれるようになりたいって思ってた
俺も もっかい考え直すよ 黒沼が言ってたみたいに
俺が 本当にやりたい事 」
子はいつか父を乗り越えねばならず、父は子と真剣に戦わねばならぬ。
そう思わせられる、親子関係であった。
向上心が強い。
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