20巻 episode 82. それぞれのバレンタイン
乙女心の有る大和撫子の国 ――― 日本。
我が国のバレンタインデーは、恋する女の子を救済するための日として定着している。
恋する想いをチョコレートに込めて、届ける勇気を与えてくれる日である。
もし君に、好きな女性がいるならば、自ら告白しに行こう。
もし君に、好きな女性がいなければ、むやみにチョコレートを欲しがってはならない。
告白されたら、きっと誰もが嬉しいと思う。
しかし、それでチョコレートを欲しがるのは筋違いになってしまう。
風早も三浦も、対抗意識を持たないモテ男二人には、貰えて当然という姿勢は無かった。
では、貰ったチョコの数は、自分がどれ程モテるかのバロメーターとなり得るのだろうか?
確かにそうであるが、安直な考えでチョコレートを求めるのは、止めて欲しい。
チョコレートを届ける女性の想いを大切にする事で、日本で培った独自のバレンタインデー文化をより良くする事が出来る。
それに、男性側はバレンタインデーだからといって肩肘を張らず、普通に落ち着いていたいものである。
ただ、恋人のいる二人のモテ男については例外なのかも知れない。
その一人は、矢野と交際が始まって、ますます元気はつらつになった三浦である。
毎年チョコレートを沢山貰ってきた彼は、この日が楽しみで仕方が無かった。
「 いや ――― バレンタインだね 〰〰〰〰〰 !!!
風早 去年もらわなかったんでしょ チョコレート‼
「 なんで知ってんだよ‼ 」
いやー 数多の女子が泣いてたからさ 〰〰〰
ひでー奴だと思ってたんだよ 風早のこと!
だぁめだよ ちゃんと もらわないと 〰〰〰 かわいそーじゃん! 」
女の子の気持ちを良く心得ている三浦は、優しげな笑みを浮かべて風早を叱った。
今の風早も、これは失敗だったと解っていた。
彼は黒沼に告白した時に初めて、告白する側の気持ちを知ったからである。
それ故に、今年の風早は違っていた。
あとは、女子達が勇気を出し易い様に、皆で環境づくりに気を配れるといい。
しかし、チョコレートが欲しくてたまらない男子達は、意識して騒ぎ立てていた。
「 なー おまえ チョコもらったー? 」
「 もらってねーよ! きくなよ! 放課後だろ 放課後! 」
「 バカ おまえ オレ調べでは風早 もー4個はもらってんぞ 」
「 まじでか‼ 」
チョコレートを貰えたら、そのままの流れでお付き合いが始まるかも知れない男子達の冴えない会話である。
捉え方によっては、貰えるチョコの数を競っている様にも受け取れてしまう。
バレンタインデーは、虎視眈々と狙う女子達にとって、絶好の機会ともなっている。
風早に彼女がいる事を知らない女子達、風早を奪いたい女子達が常に狙っているのである。
隙あらば 盗ってみせよう 甘き恋 ―――
男子達の会話に黒沼は、のんきな自分が先を越されている事を知り、気も漫ろとなった。
自慢話をしない。
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