21巻 episode 84. ホワイトデー
「 黒沼! おはよー!
あのさ 今日さ
今日! 放課後! 一緒にかえろー‼
晴れ予報だし ホワイトデーだからさ‼ 」
朝早くから荒井と進路相談室にこもっていた風早は、教室前で黒沼と会うなり直ぐに約束を取り付けた。
彼には、この日のための、ちょっとした計画が有った。
辺りの生徒達がホワイトデーの品を受け取っていく中で、何事も無く下校時刻を迎えた黒沼は、この帰りを楽しみにしていた。
いつもと違う帰り道を歩く彼に早速気付いた彼女は、楽しそうに尋ねた。
「 風早くん! どういうコースで歩いてるの? 」
「( ん? コース?? ) 教えなーい 」
「 そっか! わかんない方が楽しいもんね! 」
家へ帰るには、随分な遠回りをしている。
「 疲れてない? 」
「 うん! 」
「 ・・・ 楽しーの? 」
「 うん! 」
「 よかった 」
と、彼も安心して歩き続けた。
この時、彼女は二人で楽しくウォーキングしているのであり、これがホワイトデーなのだと思っていた。
彼は楽しそうに付いて来てくれる彼女が息切れをする程に丘を登った。
「 はい ちょっと休憩! 」
丘の上までたどり着くと、彼は自販機にお金を入れて、彼女に温かい飲物を差し出した。
彼と一緒であれば、長い坂道を登る事だって平気で「 楽しい 」と言って頑張れる彼女が、彼の優しい心遣いに素直に感動してくれる。
「 こっち! 」
誘う彼の視線の先には、日の暮れかけた街を展望出来る美しい風景が広がっていた。
「 ・・・ わあ ――――‼ ・・・ きれい‼
これは ・・・ ホワイトデーだよね ⁉ 」
「 うん! でも こっちが本命かな
どーぞ! ホワイトデーです! 」
彼は可愛らしい缶に入ったクッキーのプレゼントを差し出した。
言葉だけでは伝えきれない感動と喜びに包まれた彼女には、疲れが全く残っていなかった。
「 ・・・ ここで 渡したかったんだ ・・・
・・・ あっち! 黒沼んち!
そんで あっちが俺んちの方!
「 えっ そうなの ―― ⁉ 学校は? 」
「 あっち 」
「 あっ なんか わかってきた! 」
「 そんで あっちの ずーっと奥は ――――
―― ・・・ 俺 大学受けてみようと思ってる
あそこ ・・・ 地元の1個 」
「 ・・・ 私が受ける所 ――― 」
「 うん
そこにスポーツ科学学科があるんだ
まだ調べ途中で
とーちゃんや かーっちゃんには言ってないけど ―――
・・・『 そう思ってる 』って黒沼には言っておきたかった 」
「 ・・・ じゃあ ・・・ 一緒の大学だ ・・・・・・ 」
「 うん
俺さ 俺はさ
きっと ずっと ここにいると思う
多分
・・・ ずっと そうなんだと思う 」
「 うん ・・・ 」
⦅ 私も きっと
きっと ずっと ここにいる
この景色の中で 風早くんと一緒に
どうか ずっと 一緒にいられますように ⦆
鉄道で片道2時間かかれども、地元に存在する唯一の大学。
この丘まで彼女をわざわざ連れて来たのは、景色とプレゼントのためだけでは無かった。
彼が今調べている進路について、未来についてを彼女に話したかったからでもあった。
ロマンチックな事が出来る。
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