21巻 episode 86. 受験生
「 わ ……… 私も! 私も 教師になるの 」
黒沼の発言に、今度は胡桃沢が驚いた。
彼女達は興奮を隠さずに話したかったが、図書室という静かな場所で、それは許されない。
風早が図書室に姿を見せると、彼女達は話を止めた。
彼は、久しぶりに再会した胡桃沢に挨拶すると、様子を気遣った。
彼の優しさに触れられて、かつての恋心を思い出した胡桃沢は、少し気恥ずかしくなった。
やっぱり あんたを好きでよかった・・・
別れ際、胡桃沢は意外な事を口にした。
「 爽子ちゃん
塾 興味あるんだったら体験とかあるけど 」
今や受験生となった勉強好きな黒沼に、興味が無いはずは無かった。
教師を目指す者として、塾の講師がどのような教え方をするのかにも関心が有った。
その夜、両親に了承を得た彼女は、後日に塾の講義を体験した。
勉強意欲の強い受験生だけの集まる講義に参加して、大いに刺激を受けた彼女は、体験入学を終えた後も胡桃沢との密な会話が続いた。
鉄道の駅にて、帰りの列車を待つ二人。
「 爽子ちゃんも 教師志望なんでしょ 何? 小学校? 」
「 あ 今のところ高校の ・・・ 」
「 ・・・ あ ――― もうっっ
わたしたち どこまで行ってもライバルなんだね! 」
「 うん ・・・
( くるみちゃんは )D教育大 ・・・ 受けるんだよね ・・・ 」
「 うちのおばあちゃんも お母さんも お父さんも
みんな そこ出てんの ( わたしの家系は )教師一家なの 」
「 爽子ちゃんは? 志望校 」
「 私は ・・・・・・・・・ 地元の大学に 」
「 何その間 」
「 間 ・・・ あった⁉ 」
「 あったよ なんか迷ってんの?
ふうん むかつく
爽子ちゃんなら行けるんだろーな D教育大
わたしは 今のままだと合格はちょっと厳しい 」
そう言って、胡桃沢は俯いてしまったが、突然に感情を高ぶらせて熱り立った。
「 も ―― っっっ絶対合格してやる !!!
はんぱな気持ちじゃ ないんだから‼
わたし 絶対 受かるんだからね‼ 」
彼女は胡桃沢のぶれない闘志を肌で感じた。
彼女に有って、胡桃沢に無いもの・・・
胡桃沢に有って、彼女に無いもの・・・
( 先生になりたいって
ようやく自分の方向がわかって
まだ迷う事が あるとすれば
それは それは
ちがう 迷いなんてない
私は 私の今やれる事をするんだ
勉強頑張るんだ
風早くんと 大学に受かるんだ )
家に着いた彼女は、自然に机へと向かっていた。
相手の気持ち、立場を配慮出来る。
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