21巻 episode 87. 行きたい道
ある日の事、風早家のお茶の間では、重要な話が為されていた。
風早が荒井の指導の下で、真剣に考えて来た進路の話である。
店を継ぐつもりでいた彼が、考え直して見付けた「 本当にやりたい事 」とは・・・
進学を希望している地元の大学の資料を父に提示して、彼は説明を始めた。
「 大学 受けようと思ってるんだ 」
三者面談から早3か月余り、息子の出した答えに父は、容易に納得しなかった。
搔い摘めば、大学は学問を学び、深く研究する場所であって、今時の若者の様にとりあえず進学して遊ぶ所では無い。
今まで父は、息子が真剣に勉強する姿など、大して見た事が無かった。
子供の頃からスキを見付けては、外へ元気に遊びに出て行った記憶ばかりが父に描かれる。
そんな息子が大学で真面目に勉強したいと突然に言い出したものだから、父は息子の考えが相変わらず甘いと判断したのであった。
「 それが本気だって言うんだったら
ちゃんと俺に本気見せてみろ!
自力でな‼
それから物を言え‼ 」
と、真剣に息子を叱る父。
「 あー 見せてやるよ‼ 」
「 あー 見物だな こりゃ‼ 」
父の挑発に、まんまと乗った彼は、気迫を持って宣言してみせた。
男に二言は無い ―――― 彼の勉強意欲に強烈な火が付いた。
父は、勇み良く机に向かった彼を見届けると、渡された資料にじっくりと目を通していた。
父が主張する様に、明確な目的を持って本気になり、進む道を切り開きたいものである。
子供の頃から家の手伝いや野球などで忙しく、特に勉強を意識して来なかった彼にとって、中堅な大学を自力で合格するのは決して容易くない。
そのため学業優秀な彼女の存在は、とても頼りになった。
翌日、彼は校庭のベンチで黒沼に結果を報告した。
「 絶対 認めさす‼ 」
「 がんばろーね‼ 」
二人は力を込めて両手で握り拳を作り、本気で戦う姿勢で気合いを入れた。
「 ・・・ 私が風早くんに出来ることって 何かないのかな! 」
「 んー じゃあ
黒沼は黒沼のやりたい事がんばって!
そしたら俺さ
追いつけるように もっと もっと 頑張れるよ!
あのさ 俺 絶対黒沼を不安にさせねーからね‼ 」
「 なってない なってない! なってないよ‼ 」
「 これから! ずっと‼ 」
「 ・・・ うん ・・・ 私も! 」
「 時間会ったら 一緒に勉強しよっか 」
「 うん! 」
彼女をこれからもずっと不安にさせまいと、目標を定めた彼は戦う男になった。
何かに熱中している、頑張っている事が有る。
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