22巻 episode 91. 待ち合わせ
勉学に励む毎日が、習慣化して来た風早。
時間を有効に使って勉強を続ける彼もまた、欲求不満を抱えて頑張る受験生の一人である。
彼は父に宣言した通り、塾には通わず自力で猛勉強している。
学校でも自宅でも、志望校を意識しながら集中して勉強する彼にとって、この生活を続けて成績を上げていくためには、欲求不満やストレスを上手く解消する事が望まれた。
たまには黒沼とデートでもして息抜きしたい所であるが、今日の二人の諸事情を考えれば、そうもいかない。
学校では、大体はお互いに仲間達と一緒にいて、別々でいる事が多い。
放課後になれば、胡桃沢と図書室で予習をしてから一緒に塾へ向かう黒沼に刺激を受けて、彼も早く家へ帰ってやるべき事をやっている。
そのため、学校に行っても二人だけの時間はあまり無かった。
そこで彼は、自宅での勉強に一区切りを付けた後、彼女が塾から帰った頃を見計らって携帯電話を手に取った。
今なら何の気兼ねも無く、彼女と恋人らしい話が出来る。
たった数分の会話でも、彼は、やる気を補充した。
「 最近 ふたりで会ったりしてないもんな 」
「 ・・・・・・・・・ うん ・・・ 」
「 たまに お弁当の時くらいか ――
放課後も一緒に帰らなくなったしな
・・・ でもやっぱ
ふたりで会ったりもしたい!
朝 会おっか!
みんなが来る前ならふたりだよ! 」
彼の思いつきな希望により、朝は早くに家を出て、誰もいない教室で待ち合わせ、二人だけの時間は作られた。
今の彼にとって、彼女は心の拠り所となっている。
荒井が彼女の事を、寿司で言えば「 特上 」と例える程に賢い人が同じ高校に通っていて、自分の恋人である事に彼は幸運であった。
彼が自力でどこまでやれるのかは、彼女の手にも掛かっていると言っても過言では無い。
昨夜考えても理解出来なかった問題を、この早朝に彼女から教わる事も出来る。
彼女が賢いのは色々と理由が有る。
それを一つでも多く学べば、きっと、もっと彼の成績は自分でも驚く程に伸びていく。
早朝の待ち合わせが日課になった頃、いつも彼女より先に着いて待っていた彼は、つい眠気に誘われて、うとうとと机に突っ伏して眠ってしまった。
父を見返してやりたい ―――
黒沼に格好悪いところを見せられない ――
今やらないと、ライバルたちには到底追い付けない ―――
もし俺が受験に失敗すれば、彼女との関係だって危うくなる ―――
多少の無理をしてでも、彼は夜遅くまで頑張り続けている。
教室に着いた彼女は、彼にそっと近づくと、そのまま寝顔を見つめていた。
嬉しいけれど あまり無理をしないでね
今は疲れている場合では無い。
ライバル達との競争は、これからより厳しくなっていく。
忙しくても時間を作れる。
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