ここから幾つかの episode は、矢野あやねが主役として描かれており、風早は登場してきません。そのため、彼女との関係に試練を受ける三浦から、良いと思った所を書き記してみます。
23巻 episode 92. 本音
モテる様になれるなら、是非ともこの男からも学んでおきたい。
そう私達に思わせてくれる人物がいるとすれば、それは恐らく三浦健人である。
彼は去年のクリスマスに矢野と交際を始めてから半年が経とうとしている。
その当時、彼女が三浦を認めて彼氏にした理由。
「 ・・・ ケントは多分
あたしが今までつきあったよーな男とは違うもん
だから ・・・ だからさ ―― ・・・
胸を うたれたのよ ・・・・・・・・・・・・
・・・ こんなに気持ち ぶつけられたのも
一生懸命になってもらったのも初めてでさ うれしかったんだよね 」
彼は矢野と交際を始めてからずっと、彼女をとても大切にして来た。
二人で行った初詣では、そこで会った女子友達に、矢野が彼女になった事を報告した。
「 みんなとは もう 遊べないわ
オレ あやねちゃんのこと 大事にしたいんだよね
あやねちゃんにも みんなにも 失礼でしょ
オレが あやねちゃんとの時間を大事にしたいの
・・・ 他にまわす余裕 ないんだよね
それに ・・・ 他の女の子と遊んで 不安にさせたくないんだ 」
矢野の前で彼女達にそう言い切り、彼は人目を気にせず矢野にくっ付く様になった。
学校では昼休みを一緒に過ごしては、帰りも駅まで一緒に歩き、デートの約束もした。
普段の生活に加え、バレンタインデーやホワイトデー、そしてお互いの誕生日など、重要なイベントを迎える度に、彼は矢野の心を満たす努力を惜しまなかった。
心が広くて大らかで、話し上手で聞き上手な彼は、彼女を飽きさせずに楽しく時を過ごし、矢野を好きになって初めて「 愛を知った 」と喜び、男運の悪かった彼女を大切にした。
「 ケントといると気がゆるむ 」と矢野が呟いていた様に、彼は「 やさしくて いー奴 」なのであるが、日々の生活の中で、矢野は常に彼から大事にされていると実感していても、彼女の頭の中を覗いてみれば、実は彼の事が心ここに有らずとなっていた。
彼女は正直なところ、自分が嫌いだった。
子供の頃から慎重で、リスクの高い事はしない。
それ自体は悪くない。
やりたい事が有っても失敗するのが怖くて、自分が無難と思う道を常に選んで生きて来た。
⦅ 気が強くて でも気が小さくて
臆病で 度胸がない 自信もない
いつも自分を守ってばかりで ―――――― ⦆
「 ・・・・・・ あたしは あたしのこと あんますきじゃないな 」
と、卑下する真似の彼女からは、自身の性格へのわだかまりと、それが起因となる進路への悩みが窺われた。
そう、彼女には三浦と付き合う以前から、強く憧れる大学が頭の中に有った。
彼女がずっと見つめていたものは、まだ見ぬ新しい世界と、力強く羽ばたく自身の姿だけ。
結局のところ、三浦は自分の力では彼女の心を満たせない事を知ってしまうのだ。
相手の心を満たす努力が出来る。
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