23巻 episode 93. 後悔
私には無理・・・
受験しても きっと落ちる・・・
それに今は ケントもいるんだし 諦めたほうがいい・・・
だから やっぱり無難に推薦で 札幌の大学にする・・・
1年生の頃から推薦の狙える成績を保ち続けて来た矢野が、東京の大学に未練を残すのは、将来の夢に向けて頑張っている進学組から刺激を受けていたからだけでは無く、教師の荒井からの影響も大きかった。
若い頃は彼も進路に悩み、本気で全力で頑張っても後悔しなかった事は無いと言う。
大人ぶってはいても、まだまだ子供で育ち盛りな矢野に進路の話をする機会では、必ず彼女に問題提起して来た。
「 おまえ 頭は いんだけどなー
おまえ なんか全力でやったことってあんのか?
なんでもいーよ 勉強でもスポーツでも 恋愛でも 」
「 矢野 これからだ
自信はな 自分でじゃないと作れねーからな これからだよ 」
「 矢野の成績なら まず堅いと思います
ただ 矢野 おまえは本当に そこに行きたいのか?
自分の限界を ものすごい手前で 先に決めてるんじゃないのか?
・・・ 個人的な意見ですが
矢野は いろんな意味で もうひとのび出来る子だと思っています 」
彼女は周囲の者達が、夢や目標を持って頑張る姿を目にしながら、推薦希望でも真面目に塾に通いつつ、どうせ無理だと思いながらも何となく思案に暮れる日々を送ってしまう。
この頃でも彼女は、三浦とどうなってしまうのかなんて一度も考えてあげられなかった。
遠距離恋愛になってしまう可能性や、もしそうなれば別れてしまうのではないかとすら考えられず、三浦と離れたくないと思った事が一度も無かった。
東京の大学を心の底では諦めきれない彼女は、推薦希望にしていても塾で自宅で勉強に熱を入れ、彼の事は全く念頭に無かった。
結果、彼女は問い詰める三浦の本気の気持ちを受け止められなかった。
真面目で本気な彼の話を冗談にするために、ふざけて笑ってごまかし、彼の心を傷付けた。
いつも大事にしてくれた、いつも本気で接してくれた、いつも楽しい事や、嬉しい事を沢山してくれた三浦は、彼女がこれまで付き合ってきた人物とは明らかに違う。
ケントといると楽しかった ・・・
気持ちが楽になった ・・・
彼にだけは気が緩み いつでも笑顔にさせてくれた ・・・
あたしはいつも 本気じゃない
ひどい ひどい事した ひどい事した
・・・・・・・・・ まちがった まちがってた
どうしよう どうしよう ・・・
後悔して自己嫌悪に陥り、街を一人でさまよう彼女に、にわか雨が容赦無く降り注いだ。
笑顔にさせてくれる。
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