24巻 episode 99. 夢じゃない
今年の学校祭は、クラス内で誰が一番活躍したのか?
その人物は、1日目を終えた時点で既に全員一致で決まっていた。
その功労者を称えようと、ある品を進呈する事をクラスの全員で決めた。
半ばやっつけになりながらも、当日の朝にやっとの思いで完成させた山車とは違って、この進呈品は、風早が山車制作の合間に一人で丹精して作った、功労者へ贈る冠であった。
学校祭の2日目も終わり、閉会後の打ち上げの席で表彰された人物は女性であった。
大好きな彼の手で冠を頭に乗せてもらうと、その女性はとても嬉しそうにした。
彼女は照れていたが、そのたおやかな様子は風早のお姫様に見えた。
そして彼女はクラスの温かい拍手に包まれた。
功労者へ贈られた冠は、我が姫への冠でもあったのである。
二人にここまで見せつけられてしまうと、むしろ清々しい気がする。
拝めば御利益があるかも知れない程である。
この際だから、二人には絶対に別れないでいてもらいたい。
それから打ち上げも落ち着いた頃、黒沼は風早と二人きりになった。
彼女は彼に伝えたい事が有った。
早朝に教室で毎日会っている事が、睡眠不足に陥りがちな彼の体に障っているのではないかと日頃から思っていた黒沼は、昨日に体調を崩した彼の体を心配した。
「 風早くん
私たち 朝会うのやめよう
・・・・・・ その なんていうか ・・・・・・・・・ 」
彼に理由をそのまま話しても、回復したから大丈夫と言って強がるかも知れない。
しかし、彼女が理由を話し出す前に、彼はすんなりと受け入れた。
「 いいよ 」
「 ・・・・・・ え ・・・ 」
「 教育大 決めたんでしょ
勉強頑張ってるもん
朝会うのは大変でしょ? 」
彼女が今、言おうとしていた事を、逆に彼が話している。
しかも、彼は何やら教育大について言っている。
「 か ・・・ ぜはやくん
私は ・・・ そうじゃ ・・・ そうじゃなくて ・・・・・・ 」
「 ・・・・・・・・・ ・・・ ちがうの?
・・・・・・ でも ずっと思ってた
黒沼は 本当は行きたいんじゃないかって
本当に ちがう? 」
彼の推測は当たっていた。
彼女は意識こそしていなかったものの、胡桃沢と接する事でD教育大への気持ちが知らぬ間に強くなっていた。
一緒に同じ大学へ行くと決めて勉強して来たのに、ここで彼の話を否定出来なければ、彼を裏切る事になってしまうのではないか?
「 大丈夫だよ 黒沼は
新しいところで 大丈夫 」
もしかしたら彼女は言い出し辛いのではないかと、彼は恐らく思っていた。
だから彼は、もうずっと前から「 行くなよ 」と言わずに、彼女を応援すると決めていた。
自分の姫として扱ってくれる。
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